2018年10月29日月曜日

K.459 ピアノ協奏曲(第19番)ヘ長調/第1楽章

この年(1784年)に書かれた最後のピアノ協奏曲がこのヘ長調の作品です。初演の時期は不明ですが、1790年10月のレオポルト2世の戴冠式を祝した演奏会で、モーツァルト自身がK.537の協奏曲と共に演奏したと推測されていて「第2戴冠式」とも呼ばれています。
楽器編成は独奏ピアノ、フルート、オーボエ2、ファゴット2、ホルン2、ヴァイオリン2部、ヴィオラ、バスになっていますが、作品目録には「トランペット2、ティンパニー」も記載されていますが、自筆譜が見つかっていないため、紛失したのか、モーツァルト自身が目録に記載ミスしたのか、はっきりはわかっていません。
第1楽章は、2分の2拍子、ソナタ形式で、「タン タッタ タン タン」というよく耳にする行進曲風のリズムで軽やかに始まります。そしてこのリズムが410小節あるこの楽章の4割近くを占めていて、とても印象的です。
カデンツァはモーツァルト自身が残しているもので演奏されています。


ピアノ協奏曲(第19番)ヘ長調 K.459/第1楽章 Allegro vivace

余談今週の「きらクラ!
秋真っ盛り。「ブラームスを秋の季語に」ということで俳句の投稿がたくさん紹介されてました。本当に秋とブラームスはしっくりパートナーです。
またDonのショパン夜想曲も久しぶりに聴きましたが「秋に沈む」とふかわさんが表現されていましたが、言い得て妙でした。
Kirapediaの「コダマッチ」では私の拙文を読んでいただきありがとうございました。久々に採用していただき感謝感激です。家人と赤飯を炊いてお祝いしました(笑い)

2018年10月21日日曜日

K.458 弦楽四重奏曲 変ロ長調「狩」/第4楽章

1784年にモーツァルトは弦楽四重奏曲を1曲書いています。
よく知られているように、ハイドンに捧げた6曲の弦楽四重奏曲の一つで「狩」という名前で呼ばれています。これは後世の人が第1楽章の開始主題のホルンの呼び声という性格から付けた愛称で、音楽そのものはそういった標題音楽ではありません。
このハイドンセットのシリーズは、これまでも何度かこのブログで取り上げてきましたが、1782年12月末に書かれたト長調「春」K.387から始まり、1785年1月のハ長調「不協和音」K.465で完結します。
この曲は前作の3曲に比べると、さらなるモーツァルトの研鑽の成果が見事に結実していて、各楽器の無駄のないモティーフのやり取り、対位法的技術の適用、展開部のさらなる充実など、素晴らしい仕上がりになっています。
今日は、フィナーレの第4楽章を聴いてみます。緻密な対位法的展開部をもったソナタ形式で、アレグロ・アッサイの快適な推進力が密度の高いフィナーレへと疾駆します。


弦楽四重奏曲 変ロ長調「狩」K.458/第4楽章 Allegro assai

Link >> 第1楽章

余談
今日は雲ひとつない素晴らしい晴天です。
こんな日にモーツァルトの弦楽四重奏を聴いていると、本当に満たされた気持になります。何度聴いてもうっとりするような魅力に満ち溢れています。抱きしめたいような音楽です。

2018年10月17日水曜日

K.457 ピアノ・ソナタ ハ短調 /第2楽章

第2楽章は一転して穏やかなアダージョ、変ホ長調のゆったりした旋律が流れ、心を奪われるような安らぎに満ちた楽章となっています。
ロンド形式で“sotto voce”(ソット・ヴォーチェ:ひそかな声で)という滅多に見ない曲想指示がなされた穏やかな主題が、エピソードを挿みながら3回ほど繰り返されます。そのつど優雅で華麗な装飾が施され、豊かな陰影を伴いながら変奏されていきます。楽章を閉じるコーダも細かな動きを伴って静かに終わります。
エピソードの中にベートーヴェンの「悲愴」の第2楽章に似たフレーズが出てくるのも興味深いところです。


ピアノ・ソナタ ハ短調 K.457/第2楽章 Adagio 変ホ長調

余談
「芸術の秋」真っ盛り。当地でも素晴らしい演奏会がいくつも開かれています。
私も今月は既に4回ほど足を運びました。
その中で特に印象に残ったのは、辻彩奈さんがN響と共演したモーツァルトのヴァイオリン協奏曲 イ長調 K.219「トルコ風」でした。
辻さんの演奏は初めて聴いたのですが、完璧ともいえるテクニックで伸び伸びと奏でられた旋律に深く感銘しました。私にとって何度か聴いたこの曲のベスト・パーフォーマンスでした。
辻さんはまだ20歳ということで、将来が本当に楽しみです。

また先日は当地のアマチュア市民楽団がバッハの「ヨハネ受難曲」を全編演奏するという、驚くべき演奏会がありました。
受難曲は私にとって非常に敷居が高く、今まで生演奏はおろかCDも通して聴いたことがありませんでしたが、今回初めて全曲を聴いて深い感銘を憶えました。
当日配布された手作りの厚いプログラムの対訳を見ながら聴いていたら、敬虔な信仰心を謳い上げる清浄な思いが、宗教的に門外漢の私にもひしひしと伝わって来て、心が洗われるようでした。今まで知らなかった新しいバッハの世界を垣間見た思いでした。
この演奏会を実現された、指揮者でチェンバロも演奏された八百板氏をはじめ多くの関係者に敬意を表します。そして、このような団体が地元にあることに大きな誇りを感じました。

2018年10月7日日曜日

K.457 ピアノ・ソナタ ハ短調 /第1楽章

モーツァルトのピアノ・ソナタは概ね18曲ありますが、その中で短調は2曲のみで、イ短調のK.310と今日聴くK.457のハ短調で、いずれも演奏機会の多い人気曲となっています。
このハ短調のソナタは、1784年10月14日に完成して、テレーゼ・トラットナー夫人のために作曲されたと記録されていて、7ヶ月後に書かれた幻想曲ハ短調(K.475)と共にウィーンのアルタリア社から出版されています。
トラットナー氏は、当時のモーツァルトの家主であり、書籍出版業を営んでいて、夫人はピアノの弟子でしたが、これだけの曲を献呈されたのですから、かなりの技量の持ち主であったと推測されます。
第1楽章は、力強く上昇する分散和音に始まる緊張感に満ちた第1主題と変ホ長調の第2主題が強弱を交え何度も激しい波のようにダイナミックに展開し、エネルギーを保持しながら静かに楽章を閉じます。
このソナタはその激越的な曲想から、来るべきベートーヴェンのソナタ群を予告するものと評されてもいます。


ピアノ・ソナタ ハ短調 K.457/第1楽章 Molto Allegro

<写真>オーストリア ハルシュタットにて