2018年12月5日水曜日

K.469 カンタータ「悔悟するダヴィデ」【御命日に寄せて】


本日はモーツァルトの227回目の御命日です。
今年もこの日を無事に迎えられたことに感謝します。

今日は前作のハ長調のピアノ協奏曲の演奏会から、僅か3日後(1785年3月13日)に初演されたカンタータを聴いてみます。
この曲は、当時ウィーンの音楽界で重要な役割を果たしていたウィーン音楽芸術家協会(のちの「ウィーン楽友協会」)の依頼で準備されました。
当初は大規模なオラトリオを作曲する予定でしたが、あまりの多忙さで間に合わず、結局以前作曲した『ハ短調ミサ曲(K.427)』に新たな2曲のアリアを加え、編曲する形となって、芸術家協会主催の演奏会で自ら指揮をして初演を迎えました。
モーツァルトはなんとか違和感なく全体をまとめましたが、かなり不本意であったことでしょう。自筆譜は新しい楽譜でなく、ハ短調ミサ曲のスコアに書き込みしてまで間に合わせたもので、その多忙さは極限的であったようです。
本日聴くのは、その第8曲の新しく書かれたソプラノのためのアリアで、大意は『暗き影から明るい天の光がさす。嵐の時も誠実な魂はおそれがなく、平安を乱すものではない。』となっています。
弦のトレモロが暗く響き、弦のパッセージと競うようにソプラノが技巧を聴かせます。途中からハ長調のアレグロとなり、華麗なコロラトゥーラの歌唱が展開されます。


カンタータ「悔悟するダヴィデ」K.469/第8曲 アリア「暗い、不吉な闇の中から」Andante - Allegro

余談
この頃のモーツァルトは3月11日から18日の1週間で、自らのコンサートが7回、他人のコンサートへの出演が3回、さらに日曜日にはスヴィーテン男爵のマティネー・コンサートに出なければならなかったようですから、その多忙さは尋常でありません。
そして演奏するだけでなく、作曲もこなさなければならないのですから、信じられないような生活です。
本当にお疲れさまでした。どうか天上界でゆっくりとお休み下さい。

2018年12月3日月曜日

K.467 ピアノ協奏曲(第21番)ハ長調/第1楽章

前作のニ短調協奏曲の僅か1ケ月後に、モーツァルトは一転してハ長調の明るいピアノ協奏曲を書き上げています。このように短調を作曲した直後に、対照的な長調の曲を書くことは、モーツァルトによく見られる傾向です。
この作品も、彼自身の予約演奏会(1785年3月10日開催)のために書かれましたが、多忙のためか前作同様に演奏会の前日に書き終えたという慌ただしさだったようです。しかし出来上がった作品は、そのような繁忙さを微塵も感じさせない素晴らしい完成度で、聴く者を魅了せずにはいません。
ここで聴く第1楽章は、行進曲風の明朗なリズムの第1主題で始まります。終始明るい響きの提示部の後に、木管の音色に誘われるように独奏ピアノが登場して、主題を改めて提示します。流麗な旋律を奏でた後に、唐突にト短調の第40番交響曲の冒頭の旋律が現れ意表を突かれますが、この旋律はここで1回のみしか使われないところはユニークです。
その後ピアノがト長調の平明な第2主題をもたらし、色とりどりの短調を装いながら、目くるめく絢爛な響きの世界を展開していきます。オーケストラとの掛け合いも緻密で、豊かな交響的な雰囲気を醸し出しています。
カデンツァ(モーツァルトの自作の譜面は残っていない)の後は冒頭のリズムにより静かに楽章を終えます。


ピアノ協奏曲(第21番)ハ長調 K.467/第1楽章 Allegro maestoso (Cadenza: Barenboim)
Link >> 第2楽章 Andante

余談
モーツァルトの数あるピアノ協奏曲の中でも、この楽章は私の最も好きなもののひとつです。
前作のニ短調の緊張から解放されたかのように、のびのびとしてとにかく美しい!!
最初の音が響いてから全てが流れるように瑞々しく、明快でかつ奥深く、時に哀愁を帯びて心を揺さぶります。特にピアノが第2主題を奏でてから、自由奔放に豊かな旋律を描きながら、オーケストラと天衣無縫のタペストリーを紡いでいく美しさには我を忘れます。
モーツァルトが生涯でこの1曲しか残さなかったとしても、私は大好きになったと思います。(考えてみると、そう言える曲は他にも山ほどありますが・・・・)