2019年1月10日木曜日

K.475 幻想曲 ハ短調

1785年5月に書かれた、このピアノのためのハ短調の幻想曲は、ニ短調の K.397 とともに名高い名曲です。
モーツァルトがウィーンに移り住んで最初に書いたハ短調のピアノ・ソナタ K.457 と合わせてお弟子さんのフォン・トラットナー夫人に捧げられ、後にウィーンの楽譜出版社から出版されました。この幻想曲はハ短調ソナタの前奏として演奏されることを意図して作曲されと思われています。
曲はテンポの変化によって5つの部分によって構成されています。 最初は重苦しくうごめくような主題が繰り返されるアダージョで、ハ短調で始まり、転調を繰り返しながら流れを強め、やがてニ長調の穏やかな旋律が現れたかと思うと、突然低音のフォルテが鳴り響き第2部のアレグロが情熱的に奏でられます。
その後、アンダンティーノの第3部では典雅な宮廷舞踏の趣を漂わせたかと思うと、再び嵐のような激しい動きのピウ・アレグロの第4部を経て、最後は冒頭のハ短調の重苦しい雰囲気で曲を閉じます。


幻想曲 ハ短調 K.475

余談
この幻想曲は、モーツァルトのピアノ曲の中で、起伏に富んだ非常に変化の激しい作品として異彩を放っています。
この時期にモーツァルトの内面で何か劇的な変化でも起こったのだろうかと詮索してしまうほどです。多くの手紙などの資料からそれを示すようなことが記載されて部分は残っているのでしょうか? 何かモーツァルトの深い魂の叫びを聴くような感じもします。
それはさておき、この作品は非常に変化の激しい曲想にもかかわらず、高い次元での統一感と深い安らぎとを感じさせ、不思議な引力に取り込まれるような魅力に溢れた作品です。
一般的にモーツァルトの作品は長調の明るく屈託のない伸びやかな音楽が広く知られていますが、この作品はそのような認識の対極に位置しています。

0 件のコメント:

コメントを投稿