捕えられた4人が、一縷の望みを抱きつつも、死を覚悟して裁きを待っているところに太守セリムが登場して判決を言い渡します。
「それでは俺の決心した判決を下す。…みんなを放免してやるから、一緒に本国に帰るがいい」と言い、予想外のことで一同が唖然としてしまいます。そして太守が続けます……「お前の父親は俺にひどいことをした。俺はお前の父親を心の底から憎んでいる。しかし、お前の父親と同じようなことはやりたくないんだ。」こう言うと、一同はその寛大さに心から打たれ、恥じ入り、心から感謝します。
この最終場面で歌われるのがこのヴォードヴィル(軽喜歌劇)です。
途中にオスミンの怒り狂ったような歌唱をはさんで、太守を讃える大合唱で華やかなエンディングを迎えます。
「後宮からの逃走」K.384 第3幕 Vaudeville『ご恩を決して忘れず、永遠に感謝します 』--『セリム太守をたたえよ!』
<訳> (小学館 魅惑のオペラ 第17巻より転載)
ベルモンテ(B)
ご恩を決して忘れず 永遠に感謝します。
いつ、どんな場所でも あなたの高貴さをたたえます。
このようなご恩を忘れる者は 軽蔑されてしかりです。
コンスタンツェ(K)、B、ペドリロ(P)、ブロンデ(Bl)、オスミン(O)
このようなご恩を忘れる者は 軽蔑されてしかりです。
K あなたの愛に 感謝の気持ちを忘れません。
愛を捧げられた私の心は あなたに感謝し続けます。
寛大な愛を忘れる者は 軽蔑に値しますわ。
K,B,P,Bl,O
このようなご恩を忘れる者は 軽蔑されてしかりです。
P 縛り首寸前だったことを忘れてはいけない。
罰せられたかもしれないことを 思い起こします。
恩を忘れる者は 軽蔑に値するのです。
K,B,P,Bl,O
このようなご恩を 絶対に忘れてはなりません。
Bl 太守様に心から感謝します。食事と床を与えてくださったわ。
ここから解放してくださり うれしく思います。
(オスミンを指し)
あの連中に囲まれて よく退屈しないものね。
O (怒りながら)
仕事をサボる奴らを 火あぶりにしてやりたい 我慢の限界は近いぞ。
奴らを処刑するなら…口で言うのももどかしい
首を切り、吊るして 熱い鉄棒で串刺しだ
焼いたあと 水に浸して皮をはぐ。
K,B,P,Bl
復讐ほど醜いものはない。復讐は人の道に外れること
業を捨て 寛大な心をもつのです!
K それが分からない者は 軽蔑の目で見られるは。
K,B,P,Bl
それを理解しない者は 軽蔑されて当然です。
従者の合唱
セリム太守を万歳でたたえよ! 彼の領国に繁栄あれ!
歓呼と名声によって 彼の頭上は光輝く。
セリム太守、万歳! 彼の領国に繁栄あれ!
◆余談◆
白鳥もほとんど北国に帰ってしまいました。春はすぐそこです。
「後宮からの逃走」もようやく終幕を迎えました。
太守セリムの寛大な判決によって、めでたくハッピーエンディングで幕を閉じました。
このオペラの初演は大成功をおさめ、繰り返して上演されたようです。そしてモーツァルトはウィーンでの生活の基盤を確立し、このオペラに登場するコンスタンツェと同じ名前の愛妻を獲得します。
数々の美しい旋律、ちょっとコミカルなリズム、エネルギー溢れるオーケストレーション、深い感情を見事に映し出すハーモニー等、傑作揃いのモーツァルトのオペラの中でも、ひと際若さ溢れる魅力的な作品です。これからも何回も味わいたい名作です。
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