第2楽章は一転して哀愁を帯びた ハ短調 アンダンティーノ。
モーツァルトの自作である5番以降のピアノ協奏曲で短調の楽章はこれが最初となります。
この楽章の憂愁さについて吉田秀和氏は「ある形をきちんと踏んだ上での憂愁さと言いますかね、そういうモーツァルトの様式的な憂愁美の典型的な作風がここで見られる」(モーツァルトその音楽と生涯 第3巻 P19)と述べています。
これ以降晩年にかけて、伝統的な様式を凌駕する名作ピアノ協奏曲の数々が生み出されていきます。
ピアノ協奏曲 変ホ長調「ジュノム」K.271/第2楽章 Andantino ハ短調
※この協奏曲の「ジュノム」という名称は、ケッヘル番号の第3版改訂時にアインシュタインがつけたのもで、その根拠は不明でした。その後、古文書の研究で「ジュノム」はモーツァルトの友人であるフランスの舞踏家、ジャン=ジョルジュ・ノヴェールの娘、ルイーズ・ヴィクトワール・ジュナミであることが判明したと、2004年オーストリアの音楽学者が発表したそうです。
この研究発表後も「ジュナム」ではなく、従来の「ジュノム」が一般的に普及しています。
◆余談 コンサート・レポート◆
昨夜、小曽根真さんピアノ独奏でこの「ジュノム」を聴いてきました。オーケストラはNHK交響楽団、指揮は広上淳一氏。
注目のカデンツァですが、以前聴いたヴァージョンとは全く違った印象を受けました。
第1楽章は内省的な曲想と厚い響きでラフマニノフ風。第2楽章はフランス音楽のような優雅さと哀愁を漂わせていました。第3楽章は変化に富んだリズムやメロディーで多様な表現を楽しませてもらいました。
曲全体とカデンツァのバランスがとてもよく、収まりのいい仕上がりで十分楽しませていただきました。私的にいうなら、大気圏外ではなく成層圏のカデンツァでした。
ジャズピアニストでもオーケストラとの共演となると、当然好き勝手には出来なくて、指揮者の意向が第一になるのではないかと思います。
そうなると、独奏者と指揮者・オーケストラとの力関係が影響してくるように思いますが、その辺の内部事情は知る由もありません。先入観念かN響は「堅い」イメージがあり、小曽根さんとの相性はいかがなものなのでしょうか?
2006年に初めて聴いた時のオーケストラはポワトゥ=シャラント管弦楽団というフランスの臨時編成オーケストラでした。小曽根さんのカデンツァが始まると、楽団員が驚きとともに微笑みを湛えながら「のり」のいい演奏を展開して、私は打ちのめされるような衝撃と感動を味わいました。
今回の演奏は3回目という慣れもあるのか、余裕をもって受け止められましたが、心のどこかで「もっと激しいのが欲しい……」という声も聞こえてきました。
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