前楽章・ロマンス中間部で激しく奏でられた旋律の余韻を伝えるかのように、駆け上がる上昇音型のピアノの独奏で、この第3楽章は始まります。
アレグロ・アッサイ、ロンド・ソナタ形式で書かれています。全体的にニ短調の悲劇的な空気がみなぎっていますが、エピローグにかけて所々明るい旋律が姿を現します。
そして再現部、カデンツァを経てコーダでは長調に転換して、堂々と力強く全曲が結ばれます。
このコーダで長調に転換するところは、ロマン派の音楽ではあまりないように思いますが、そこはモーツァルトの聴衆への配慮があるように窺えます。
当時としてはかなり革新的で刺激の強いこの曲で、聴衆を悲劇的な印象のまま置き去りにしない、モーツァルトのプロ意識を垣間見る思いがします。自身の芸術的な衝動と、聴衆の嗜好とのバランスを取れるのも素晴らしい才能です。
ピアノ協奏曲(第20番)ニ短調 K.466/第3楽章 Allegro assai(Cadenzas:Ludwig von Beethoven)
◆余談◆
このK.466はよく知られているように、モーツァルトが短調で書いた2つのピアノ協奏曲の内の最初の1曲です。
これだけの革新的な新曲を発表するのですから、さぞ入念な準備がなされたと思われがちですが、実際は真逆であったようです。
ザルツブルクから訪れて、この初演に立ち会った父レオポルトの娘ナルネン宛ての手紙によると、この日の演奏会の当日になってもまだ写譜屋が楽譜を写している段階で、演奏の直前にようやく譜面が楽団員に渡るような状態だったようです。
ですから通して練習する時間もなく、殆んど初見で演奏したようです。それで聴衆を満足させる演奏だったというのですから、楽団員の能力の高さには驚愕します。
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