2018年5月7日月曜日

K.331(300i) ピアノ・ソナタ(第11番)イ長調/第1楽章

『トルコ行進曲付き』の名前で広く親しまれてソナタです。とはいえ、楽章構成からすると通常のソナタからは例外的な存在となっています。
この第1楽章がアンダンテの変奏で始まり、中間楽章がメヌエットで、最後が「トルコ風」という個性的な楽章構成になっていますが、聴いてみると実に自然な流れで、全く違和感を感じない美しく快活な作品に仕上がっています。
ここで聴く第1楽章は、主題と6つの変奏からなり、主題は8分の6拍子の舟唄風のゆったりしたリズムをもっています。第3変奏はイ短調、第5変奏ではアダージョとなり、最後はアレグロの第6変奏で明るく楽章を締めくくります。


ピアノ・ソナタ(第11番)イ長調 K.331(300i)/第1楽章 Andante grazioso 6/8 主題と6変奏


 ◆◆金沢・風と緑の楽都音楽祭2018 見聞録(上)◆◆ 
5月3日~5日の2泊3日で金沢の音楽祭でモーツァルトを堪能させていただきました。 ここにその簡単な感想を書かせていただきます。音楽のド素人である私が、名立たるアーティストの演奏に感想を述べるなど全くおこがましいことですが、拙い個人的備忘録と一笑に付してください。

 3月に今回の企画が発表されて時点で、その豪華なアーティスト達に目を見張りました。 1地方都市でこれだけ国際的なアーティストを集めて、これだけの規模で音楽祭を開催できる石川県・金沢市の都市力、多くのボランティアを含む人材力に敬意を表します。本当に素晴らしいことだと思います。

私は全11公演を聴かせていただきました。その中でいくつかの印象的な演奏を取り上げさせていただきます。

■アシュケナージ指揮+辻井伸行ピアノ+OEK
 今回の音楽祭で最も注目したのは、ウラディーミル・アシュケナージ指揮、辻井伸行ピアノ、オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のピアノ協奏曲第21番、第26番でした。 アシュケナージは以前フィルハーモニア管弦楽団との弾き振りでモーツァルトのピアノ協奏曲全集を出していて、それは私の愛聴盤になっています。(正直彼の弾き振りを聴きたくもありましたが、80歳という年齢を考慮すると叶わぬ夢のようです)
 実際の演奏を聴いてみて、期待に違わぬ名演でありました。
 まずOEKの音色がとても美しく、ピアノ独奏に優しく寄り添ったアンサンブルは、控えめながら気品を感じさせる見事なものでした。
 そして辻井さんのピアノの響きは、以前聴いて心を動かされた感動が甦る、柔らかく繊細なタッチで至福感に包まれました。
 安心して身を委ねられる演奏で、それもこれも全体を見事にまとめた、アシュケナージ氏の手腕あってのものと思いました。
 余談ですが、辻井さんは『ハンディを乗り越えて、こんなに素晴らしい演奏をする』といった目で見られる時期はとうに過ぎたかと思います。これからは一人のピアニストとして、辻井さんの(楽譜を介さない)独自の世界で音楽と向き合って、その感性により磨きをかけて私たちに聴かせてもらえればと祈っています。
 老婆心ながら辻井さん忙しいスケジュールを見ていると、どうか体を壊さないように、健康第一で研鑽を積んでください、と心からお祈りします。

■多彩なソリストのピアノ協奏曲
 辻井さん以外にも、今回の音楽祭では多彩なソリストが名を連ね、同じ会場の(多分)同じピアノ(スタインウェイ)で聴き比べ出来たことも大きな収穫でした。
 20番=モナ・飛鳥、ザルツブルク・モーツアルテイム管弦楽団(MOS:Moarteum Orchestra Salzburg)
 22番=菊池洋子、MOS
 23番=三浦友理枝、MOS
 24番=田嶋睦子(地元・石川のピアニスト)、MOS
 以上の4曲を聴くことができました。全てオケはザルツブルク・モーツアルテイム管弦楽団でしたが、このオケはピリオド奏法のようにビブラートを殆んどかけない奏法で、音の輪郭がシャープ、言い方によっては痩せた音で、最初耳にした時はちょっと違和感を感じましたが、切れのあるリズム感で、強い推進力を発揮する演奏でした。
 音に溜めをつくって旋律を朗々と歌わせるタイプのソリストにとっては、MOSはやり辛いオケではなかったかと思いました。実際テンポ感でオケとせめぎ合うような場面もあったように思いました。
 また、それぞれのソリストの音を身近で聴いていると、同じピアノがソリストによって表情を変えるのが手に取るように分かり、大変興味深いものでした。このような音楽祭ならではの醍醐味でした。

■菊池洋子さんの存在感溢れる演奏
 協奏曲の中で、指揮者、ソリスト、オーケストラの立ち位置の関係は様々な形があると思いますが、私はソリストが主導権を発揮する演奏が圧倒的に好きです。ソリストの感性のままにオケを引っ張って行くような演奏に心は燃えます。
 そんな中で、私が最も印象深かったピアニストは、菊池洋子さんでした。
 個性的なMOSと互角に渡り合い、むしろ主導権を取っていると感じさせる「男前」な演奏でした。ピアニシモの繊細なタッチから、堂々たるフォルテまで、ダイナミック・レンジの広い演奏は、22番の規模の大きな交響的構築をもった曲との相性も抜群でした。
 菊池さんは海外での演奏機会も多いようで、MOSとの共演もあったようです。そのような多くの場数を踏んだ安定感・存在感は、音楽に生き生きとした生命力をもたらしました。
 驚くことに菊池さんはフォルテピアノも演奏されていて、最終日のフォルテピアノによるソナタ、変奏曲も聴かせていただきましたが、現代のピアノとは別世界の音楽を聴くことができました。機構の違う2種類の楽器を弾きこなすなんて、生易しいことではないと思うのですが・・・。とにかくまた聴いてみたいと思わせる魅力溢れるピアニストでした。

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