2019年1月13日日曜日

K.476 歌曲「すみれ」

モーツァルトが同時代の文豪ゲーテと出会った、唯一の作品として有名な歌曲を聴いてみましょう。
完成したのは1785年6月8日で、作曲の動機はわかっていません。また、当初モーツァルトはこの詩がゲーテの作とは知らず、たまたま創作意欲を起こさせる詩を目にし作曲に取り掛かったようです。
3節からなる詩は物語のような筋があり、モーツァルトはそれに即して、全体を通作にして、当時一般的だった有節形式の歌曲の枠を越えた作品に仕上げています。
明るいト長調のアレグレットで始まり、野に咲くすみれと少女の様子が曇りなく描かれる第1節。すみれの少女に対する憧れを歌った第2節。すみれの悲しい運命、そして死をも喜びとする第3節。それぞれの歌詞に応じて細かい転調がほどこされています。
そして、最後の2行はモーツァルトによって書き加えられ、全体を客観的な視点に戻しています。
この作品は、シューベルト以降に展開されるドイツ・ロマン派歌曲の先駆とみなされています。


歌曲「すみれ」K.476/Allegretto ト長調 4分の2

歌詞
Ein Veilchen auf der Wiese stand
gebückt in sich und unbekannt;
es war ein herzig's Veilchen.
すみれが一本草原に咲いていた
ひっそりと身をかがめ、人に気付かれずに
それはかわいいすみれだった
Da kam ein'junge Schäferin
mit leichtem Schritt und munterm Sinn
daher, daher,
die Wiese her, und sang.
そこへ若い羊飼いの少女がやって来た
軽やかな足どりで、晴れやかな心で
そこからこっちの方へ
草原の中を、歌をうたいながら
Ach denkt das Veilchen, wär'ich nur
die schönste Blume der Natur,
ach, nur ein kleines Weilchen,
bis mich das Liebchen abgepflückt
und an dem Busen matt gedrückt!
ach nue, ach nur,
ein Viertelstündchen lang!
ああ、とすみれは思った、もしも自分が
この世で一番きれいな花だったら、と
ああ、ほんのちょっとの間だけでも
あの少女に摘みとられて、
胸におしあてられて、やがてしぼむ
ああ、ほんの
一時の間だけでも
Ach, aber ach! das Mädchen kam
und nicht in Acht das Veilchen nahm,
ertrat das arme Veilchen.
Es sank und starb und freut' sich noch;
und sterb'ich denn, so sterb'ich doch
durch sie, durch sie,
zu ihren Füßen doch!
ああ、それなのに!少女はやってきたが、
そのすみれには目もくれないで、
哀れなすみれを踏みつけてしまった!
すみれはつぶれ、息絶えたが、それでも喜んでいた
ともあれ、自分はあのひとのせいで
あのひとに踏まれて
死ぬんだから、と!
Das arme Veilchen!
Es war ein herzig's Veilchen.
哀れなすみれよ!
それは本当に愛らしいすみれだった

余談
この歌を聴くと、まるですみれと少女の物語が目の前で展開されるオペラを観ているようです。それぞれの歌詞が最高のメロディーと伴奏に命を与えられ、大きな羽根を広げて私たちを包み込んでくようです。
このゲーテの詩には、様々な作曲家によって現在残っているだけで約20の作品があるそうです。私も出来る範囲で調べてみましたが、耳に出来たのはシューマンの作品だけでした。モーツァルトがこれだけの作品を残していると、他の作曲家の作品は輝きを失ってしまいます。

6 件のコメント:

  1. コメント遅くなりました。
    今年もよろしくお願いします。
    「すみれ」の歌詞がこんなにも悲しい意味とは知りませんでした。
    ただ美しいだけではなかったのですね。

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    1. BWV1000番さん、コメントありがとうございます。
      こちらこそ遅くなりましたが、今年もよろしくお願いします。
      今日は久しぶりの「きらクラ!」が聴けますね。
      BWV1000番さんは、ブログで恒例のBGM選手権のデータを掲載していただき、ありがとうございました。毎年、拝見して音楽の世界の広さ、深さに感じ入ります。
      今年もBWV1000番さんやブロ友の方々の投稿が読まれることを楽しみに、放送を聴かせていただきます。私も時々参加させて頂けるよう精進します。

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  2. 美しい写真!
    初めて聴く歌!
    love mozartさんをお訪ねする楽しみですね。

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    1. 山好きかっちゃんさん、コメントありがとうございます。
      また、本日はきらクラDon!の正解並びにご当選、誠におめでとうございました。
      新年早々。知ってる方の投稿が読まれて、自分のことのように嬉しく感じました。
      守備範囲の狭い私は、今回も次回のDon!も???で、降参です・・・残念。

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  3. こんにちは。恩師の友人の方が歌を趣味で歌われていて、その方の歌う「すみれ」を数年前に聴きました。すごく好きな歌だとおっしゃっていました。その方も今は鬼籍にはいられました。
    ゲーテの詩、しかもこういう深い詩だとは知りませんでした。

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    1. じゃくさん、コメントありがとうございます。
      「きらクラ!」では新年早々素敵な音楽を紹介してくださり、感謝感謝です。
      家人もえらく気に入って、録音データからあの曲を抽出して時々聴こうと思っています。

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