2018年12月5日水曜日

K.469 カンタータ「悔悟するダヴィデ」【御命日に寄せて】


本日はモーツァルトの227回目の御命日です。
今年もこの日を無事に迎えられたことに感謝します。

今日は前作のハ長調のピアノ協奏曲の演奏会から、僅か3日後(1785年3月13日)に初演されたカンタータを聴いてみます。
この曲は、当時ウィーンの音楽界で重要な役割を果たしていたウィーン音楽芸術家協会(のちの「ウィーン楽友協会」)の依頼で準備されました。
当初は大規模なオラトリオを作曲する予定でしたが、あまりの多忙さで間に合わず、結局以前作曲した『ハ短調ミサ曲(K.427)』に新たな2曲のアリアを加え、編曲する形となって、芸術家協会主催の演奏会で自ら指揮をして初演を迎えました。
モーツァルトはなんとか違和感なく全体をまとめましたが、かなり不本意であったことでしょう。自筆譜は新しい楽譜でなく、ハ短調ミサ曲のスコアに書き込みしてまで間に合わせたもので、その多忙さは極限的であったようです。
本日聴くのは、その第8曲の新しく書かれたソプラノのためのアリアで、大意は『暗き影から明るい天の光がさす。嵐の時も誠実な魂はおそれがなく、平安を乱すものではない。』となっています。
弦のトレモロが暗く響き、弦のパッセージと競うようにソプラノが技巧を聴かせます。途中からハ長調のアレグロとなり、華麗なコロラトゥーラの歌唱が展開されます。


カンタータ「悔悟するダヴィデ」K.469/第8曲 アリア「暗い、不吉な闇の中から」Andante - Allegro

余談
この頃のモーツァルトは3月11日から18日の1週間で、自らのコンサートが7回、他人のコンサートへの出演が3回、さらに日曜日にはスヴィーテン男爵のマティネー・コンサートに出なければならなかったようですから、その多忙さは尋常でありません。
そして演奏するだけでなく、作曲もこなさなければならないのですから、信じられないような生活です。
本当にお疲れさまでした。どうか天上界でゆっくりとお休み下さい。

2018年12月3日月曜日

K.467 ピアノ協奏曲(第21番)ハ長調/第1楽章

前作のニ短調協奏曲の僅か1ケ月後に、モーツァルトは一転してハ長調の明るいピアノ協奏曲を書き上げています。このように短調を作曲した直後に、対照的な長調の曲を書くことは、モーツァルトによく見られる傾向です。
この作品も、彼自身の予約演奏会(1785年3月10日開催)のために書かれましたが、多忙のためか前作同様に演奏会の前日に書き終えたという慌ただしさだったようです。しかし出来上がった作品は、そのような繁忙さを微塵も感じさせない素晴らしい完成度で、聴く者を魅了せずにはいません。
ここで聴く第1楽章は、行進曲風の明朗なリズムの第1主題で始まります。終始明るい響きの提示部の後に、木管の音色に誘われるように独奏ピアノが登場して、主題を改めて提示します。流麗な旋律を奏でた後に、唐突にト短調の第40番交響曲の冒頭の旋律が現れ意表を突かれますが、この旋律はここで1回のみしか使われないところはユニークです。
その後ピアノがト長調の平明な第2主題をもたらし、色とりどりの短調を装いながら、目くるめく絢爛な響きの世界を展開していきます。オーケストラとの掛け合いも緻密で、豊かな交響的な雰囲気を醸し出しています。
カデンツァ(モーツァルトの自作の譜面は残っていない)の後は冒頭のリズムにより静かに楽章を終えます。


ピアノ協奏曲(第21番)ハ長調 K.467/第1楽章 Allegro maestoso (Cadenza: Barenboim)
Link >> 第2楽章 Andante

余談
モーツァルトの数あるピアノ協奏曲の中でも、この楽章は私の最も好きなもののひとつです。
前作のニ短調の緊張から解放されたかのように、のびのびとしてとにかく美しい!!
最初の音が響いてから全てが流れるように瑞々しく、明快でかつ奥深く、時に哀愁を帯びて心を揺さぶります。特にピアノが第2主題を奏でてから、自由奔放に豊かな旋律を描きながら、オーケストラと天衣無縫のタペストリーを紡いでいく美しさには我を忘れます。
モーツァルトが生涯でこの1曲しか残さなかったとしても、私は大好きになったと思います。(考えてみると、そう言える曲は他にも山ほどありますが・・・・)

2018年11月29日木曜日

K.466 ピアノ協奏曲(第20番)ニ短調/第3楽章

前楽章・ロマンス中間部で激しく奏でられた旋律の余韻を伝えるかのように、駆け上がる上昇音型のピアノの独奏で、この第3楽章は始まります。
アレグロ・アッサイ、ロンド・ソナタ形式で書かれています。全体的にニ短調の悲劇的な空気がみなぎっていますが、エピローグにかけて所々明るい旋律が姿を現します。
そして再現部、カデンツァを経てコーダでは長調に転換して、堂々と力強く全曲が結ばれます。
このコーダで長調に転換するところは、ロマン派の音楽ではあまりないように思いますが、そこはモーツァルトの聴衆への配慮があるように窺えます。
当時としてはかなり革新的で刺激の強いこの曲で、聴衆を悲劇的な印象のまま置き去りにしない、モーツァルトのプロ意識を垣間見る思いがします。自身の芸術的な衝動と、聴衆の嗜好とのバランスを取れるのも素晴らしい才能です。

ピアノ協奏曲(第20番)ニ短調 K.466/第3楽章 Allegro assai(Cadenzas:Ludwig von Beethoven)

余談
このK.466はよく知られているように、モーツァルトが短調で書いた2つのピアノ協奏曲の内の最初の1曲です。
これだけの革新的な新曲を発表するのですから、さぞ入念な準備がなされたと思われがちですが、実際は真逆であったようです。
ザルツブルクから訪れて、この初演に立ち会った父レオポルトの娘ナルネン宛ての手紙によると、この日の演奏会の当日になってもまだ写譜屋が楽譜を写している段階で、演奏の直前にようやく譜面が楽団員に渡るような状態だったようです。
ですから通して練習する時間もなく、殆んど初見で演奏したようです。それで聴衆を満足させる演奏だったというのですから、楽団員の能力の高さには驚愕します。

2018年11月28日水曜日

K.466 ピアノ協奏曲(第20番)ニ短調/第1楽章

弦のシンコペーションが静かに波打ち、暗欝な胸騒ぎを抱かせる流れに鋭く3連符の上昇音が切れ込み、一気に緊張感が高まる・・・そして独奏ピアノがニ短調の孤高の旋律を奏でながら登場する・・・この哀調を帯びた始まりの美しさには、何度聴いても心を奪われます。
作曲されたのはフリーメイソンに入会した翌年の1785年2月10日で、翌日の11日の予約演奏会でモーツァルト自身のピアノ演奏で初演されました。
当時の協奏曲は社交的で華麗な作風が一般的だった中で、この作品はデモーニッシュな要素を爆発させるような曲想で、全く新しい音楽の地平を開いたと言えると思います。
作曲に際してモーツァルトにどんな変化があったのかは推測するしかありませんが、内面的な何らかの衝動が彼を突き動かして、この曲の創作へと導いたのではないでしょうか。
記念碑的なこの作品は多くの人に愛され、ベートーヴェンもこの作品を愛奏し、第1楽章と第3楽章にカデンツァを残しています。(モーツァルト自身のカデンツァは、残念ながら残っていません。)
ここで聴く第1楽章は一般的なソナタ形式ですが、緻密な構成でピアノとオーケストラが一体化して壮大な交響的響きを生みだしています。

ピアノ協奏曲(第20番)ニ短調 K.466/第1楽章 Allegro (Cadenzas:Ludwig von Beethoven)
Link >> 第2楽章

余談ひふみんはモーツァルトがお好き
今週の「きらクラ!」では加藤一二三氏がゲストで出演され、本当に楽しく有意義な内容でした。
・名人戦の前にモーツァルトの戴冠式ミサを聴いて、肩の力が抜けてタイトルを取ることが出来た。
・対局の前にはモーツァルトを聴くことが多い。モーツァルトの音楽は「そのままでいいんだよ」というような安心感を与えてくれる。
・20連敗して苦しんだ時、モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第3番を聴いて、「もう負けない」という確信的な自信が湧いた。
等々、同じくモーツァルトを愛する者にとって、我が意を得たりのお話の数々、本当に嬉しく感じました。
加藤氏もおしゃってましたが、モーツァルトの音楽には、その人本来のエネルギーを引き出してくれるような不思議な力があるように感じます。

2018年11月23日金曜日

K.429(468a) カンタータ「汝、宇宙の魂よ」(未完)

モーツァルトの作品の中にフリーメイソンに関する曲がいくつかあります。このフリーメイソンという組織は、ちょっと謎めいていて分かりづらいところがあります。
一般的には18世紀の初めイギリスで結成され、博愛・自由・平等の実現を目指す世界的友愛団体とされています。モーツァルトの周囲にも多くの名士・知識人が入会していて、彼の音楽活動を陰に陽に支援していたようです。
1784年の12月14日にモーツァルトはウィーンのフリーメイソンのロッジ(支部のような組織)「慈善」に入会します。このことはモーツァルトに少なからず影響を及ぼしと推測されます。
ここで聴くフリーメイソンのためのカンタータは、概ねこの時期に書かれたと考えられていますが、未完に終わっています。
第1曲はモーツァルトが残した歌声部・ヴァイオリン・バスの楽譜に、友人のシュタートラーが補筆したもので演奏されています。
男声合唱で宇宙の魂である太陽への堂々とした賛歌を謳い上げています。
【歌詞大意】第1曲
汝、宇宙の魂よ、おお太陽よ、今日この日、最初の祝祭歌を捧げん!
偉大なる者よ、汝なくして我ら生くことなし。
実り、熱、光は汝からのみ来る。
(作詞:ローレンツ・レオポルト・ハシュカ、訳詞:東京書籍「モーツァルト事典」より引用)


カンタータ「汝、宇宙の魂よ」K.429(468a)/第1曲 変ホ長調

余談
フリーメイソンからモーツァルトは様々な影響を受けたのではないかと考えられます。
この頃のモーツァルトの予約演奏会の会員は174名いたなかで、約40名がフリーメイソンの会員であったようです。また、晩年に金銭的に困窮した際にも会員がモーツァルトに援助の手を差し延べたようです。このように現実生活では多くの助けを受けた団体であったといえます。
さらに、この時期を境として、モーツァルトの音楽は一層の深化を遂げて、余人の達し得ない世界にまで高まったように感じるのは私だけでしょうか。
そんな楽曲の数々を、これから順次取り上げていこうと思っています。
なお、フリーメイソン〔Freemason]の表記は他にも、フリーメイスン、フリーメーソンなどがありますが、このブログでは「フリーメイソン」に統一させていただきます。

2018年11月9日金曜日

K.deest「後宮からの逃走」からのハルモニームジーク-2

「後宮からの逃走」の初演はウィーンのブルク劇場で1782年7月16日に行われました。
その初演の4日後にモーツァルトはザルツブルクの父宛の手紙に、このオペラが好評だったことや、陰謀によって公演が邪魔された事などを書き綴った後に、以下のように述べています。
「今は仕事を沢山かかえています。来週の日曜までに、ぼくのオペラを吹奏楽に編曲しなければなりません。でないと、だれかが先を越して、ぼくの代わりに儲けてしまいます。・・(略)・・
そんなようなものを吹奏楽に直すのが、どんなにむずかしいことか、お父さんには信じられないでしょう----吹奏楽にぴったり合って、それでいて効果が失われないようにするなんて。
そこで、夜はそのために使わなければなりません。そうでもしないと、どうにもなりません。・・・(以下略)」(岩波文庫「モーツァルトの手紙(下)」より)
モーツァルトが自立した音楽家としての基盤を築こうとする必死さが伝わってきます。
今日は同じ編曲版のハルモニームジークから、ブロンデの有名なアリア「こんな喜びは他にない」を聴いてみます。はじけるような生き生きとしたリズムが実に魅力的です。


「後宮からの逃走」からのハルモニームジーク/「こんな喜びは他にない」
Link >> 劇場演奏版

余談
当地も美しい紅葉の時期を迎えました。上の写真は今週の初めに撮影したもので、燃えるようなもみじに息を呑みました。
太平洋側と違って、日本海側の天気は既に冬を感じさせるもので、この時期は霙まじりの曇天の日が多く、晴天にはなかなか恵まれないのが残念です。

2018年11月7日水曜日

K.deest「後宮からの逃走」からのハルモニームジーク-1

1784年の11月17日に名作オペラ「後宮からの逃走」がザルツブルクで初演されました。ウィーンで大成功を収めているモーツァルトにとっては、故郷に錦を飾るイベントであったといえるでしょう。
今日はちょっと寄り道をして、このオペラの管楽合奏版を聴いてみます。
この頃のウィーンでは、人気オペラが管楽合奏用に編曲されることが流行していて、この作品もその中のひとつです。この他にもヴェントが手掛けた2つの「後宮からの逃走」編曲稿があります。
この作品にケッヘル番号が付いていない(deest)のは、モーツァルトの作とは考えられていなかったためですが、最近モーツァルト自身の筆によるものだという説が提起されましたが、真相はわかっていません。
楽器編成はオーボエ、クラニネット、ホルン、ファゴット各2本で、軽妙洒脱な旋律が生き生きと演奏されていて、心地よい音楽となっています。今日はまずその中の「序曲」を聴いてみます。

「後宮からの逃走」からのハルモニームジーク/序曲
 Link >> 劇場演奏版

<写真>新潟県村杉温泉「長生館」の庭園にて

余談
モーツァルトの時代の人々にとって、人気オペラの旋律を、このような形の管楽合奏に編曲したものを、演奏したり聴いたりすることは、身近で気軽な楽しみ方だったことでしょう。
現代のようにいつでもどこでも簡単に再生出来る時代と違って、手間暇のかかるぶん、音楽をいとおしむ気持ちは強かったのではないかと思います。

2018年10月29日月曜日

K.459 ピアノ協奏曲(第19番)ヘ長調/第1楽章

この年(1784年)に書かれた最後のピアノ協奏曲がこのヘ長調の作品です。初演の時期は不明ですが、1790年10月のレオポルト2世の戴冠式を祝した演奏会で、モーツァルト自身がK.537の協奏曲と共に演奏したと推測されていて「第2戴冠式」とも呼ばれています。
楽器編成は独奏ピアノ、フルート、オーボエ2、ファゴット2、ホルン2、ヴァイオリン2部、ヴィオラ、バスになっていますが、作品目録には「トランペット2、ティンパニー」も記載されていますが、自筆譜が見つかっていないため、紛失したのか、モーツァルト自身が目録に記載ミスしたのか、はっきりはわかっていません。
第1楽章は、2分の2拍子、ソナタ形式で、「タン タッタ タン タン」というよく耳にする行進曲風のリズムで軽やかに始まります。そしてこのリズムが410小節あるこの楽章の4割近くを占めていて、とても印象的です。
カデンツァはモーツァルト自身が残しているもので演奏されています。


ピアノ協奏曲(第19番)ヘ長調 K.459/第1楽章 Allegro vivace

余談今週の「きらクラ!
秋真っ盛り。「ブラームスを秋の季語に」ということで俳句の投稿がたくさん紹介されてました。本当に秋とブラームスはしっくりパートナーです。
またDonのショパン夜想曲も久しぶりに聴きましたが「秋に沈む」とふかわさんが表現されていましたが、言い得て妙でした。
Kirapediaの「コダマッチ」では私の拙文を読んでいただきありがとうございました。久々に採用していただき感謝感激です。家人と赤飯を炊いてお祝いしました(笑い)

2018年10月21日日曜日

K.458 弦楽四重奏曲 変ロ長調「狩」/第4楽章

1784年にモーツァルトは弦楽四重奏曲を1曲書いています。
よく知られているように、ハイドンに捧げた6曲の弦楽四重奏曲の一つで「狩」という名前で呼ばれています。これは後世の人が第1楽章の開始主題のホルンの呼び声という性格から付けた愛称で、音楽そのものはそういった標題音楽ではありません。
このハイドンセットのシリーズは、これまでも何度かこのブログで取り上げてきましたが、1782年12月末に書かれたト長調「春」K.387から始まり、1785年1月のハ長調「不協和音」K.465で完結します。
この曲は前作の3曲に比べると、さらなるモーツァルトの研鑽の成果が見事に結実していて、各楽器の無駄のないモティーフのやり取り、対位法的技術の適用、展開部のさらなる充実など、素晴らしい仕上がりになっています。
今日は、フィナーレの第4楽章を聴いてみます。緻密な対位法的展開部をもったソナタ形式で、アレグロ・アッサイの快適な推進力が密度の高いフィナーレへと疾駆します。


弦楽四重奏曲 変ロ長調「狩」K.458/第4楽章 Allegro assai

Link >> 第1楽章

余談
今日は雲ひとつない素晴らしい晴天です。
こんな日にモーツァルトの弦楽四重奏を聴いていると、本当に満たされた気持になります。何度聴いてもうっとりするような魅力に満ち溢れています。抱きしめたいような音楽です。

2018年10月17日水曜日

K.457 ピアノ・ソナタ ハ短調 /第2楽章

第2楽章は一転して穏やかなアダージョ、変ホ長調のゆったりした旋律が流れ、心を奪われるような安らぎに満ちた楽章となっています。
ロンド形式で“sotto voce”(ソット・ヴォーチェ:ひそかな声で)という滅多に見ない曲想指示がなされた穏やかな主題が、エピソードを挿みながら3回ほど繰り返されます。そのつど優雅で華麗な装飾が施され、豊かな陰影を伴いながら変奏されていきます。楽章を閉じるコーダも細かな動きを伴って静かに終わります。
エピソードの中にベートーヴェンの「悲愴」の第2楽章に似たフレーズが出てくるのも興味深いところです。


ピアノ・ソナタ ハ短調 K.457/第2楽章 Adagio 変ホ長調

余談
「芸術の秋」真っ盛り。当地でも素晴らしい演奏会がいくつも開かれています。
私も今月は既に4回ほど足を運びました。
その中で特に印象に残ったのは、辻彩奈さんがN響と共演したモーツァルトのヴァイオリン協奏曲 イ長調 K.219「トルコ風」でした。
辻さんの演奏は初めて聴いたのですが、完璧ともいえるテクニックで伸び伸びと奏でられた旋律に深く感銘しました。私にとって何度か聴いたこの曲のベスト・パーフォーマンスでした。
辻さんはまだ20歳ということで、将来が本当に楽しみです。

また先日は当地のアマチュア市民楽団がバッハの「ヨハネ受難曲」を全編演奏するという、驚くべき演奏会がありました。
受難曲は私にとって非常に敷居が高く、今まで生演奏はおろかCDも通して聴いたことがありませんでしたが、今回初めて全曲を聴いて深い感銘を憶えました。
当日配布された手作りの厚いプログラムの対訳を見ながら聴いていたら、敬虔な信仰心を謳い上げる清浄な思いが、宗教的に門外漢の私にもひしひしと伝わって来て、心が洗われるようでした。今まで知らなかった新しいバッハの世界を垣間見た思いでした。
この演奏会を実現された、指揮者でチェンバロも演奏された八百板氏をはじめ多くの関係者に敬意を表します。そして、このような団体が地元にあることに大きな誇りを感じました。

2018年10月7日日曜日

K.457 ピアノ・ソナタ ハ短調 /第1楽章

モーツァルトのピアノ・ソナタは概ね18曲ありますが、その中で短調は2曲のみで、イ短調のK.310と今日聴くK.457のハ短調で、いずれも演奏機会の多い人気曲となっています。
このハ短調のソナタは、1784年10月14日に完成して、テレーゼ・トラットナー夫人のために作曲されたと記録されていて、7ヶ月後に書かれた幻想曲ハ短調(K.475)と共にウィーンのアルタリア社から出版されています。
トラットナー氏は、当時のモーツァルトの家主であり、書籍出版業を営んでいて、夫人はピアノの弟子でしたが、これだけの曲を献呈されたのですから、かなりの技量の持ち主であったと推測されます。
第1楽章は、力強く上昇する分散和音に始まる緊張感に満ちた第1主題と変ホ長調の第2主題が強弱を交え何度も激しい波のようにダイナミックに展開し、エネルギーを保持しながら静かに楽章を閉じます。
このソナタはその激越的な曲想から、来るべきベートーヴェンのソナタ群を予告するものと評されてもいます。


ピアノ・ソナタ ハ短調 K.457/第1楽章 Molto Allegro

<写真>オーストリア ハルシュタットにて

2018年9月24日月曜日

K.456 ピアノ協奏曲(第18番)変ロ長調/第2楽章

1784年に書かれた5番目のピアノ協奏曲は変ロ長調で、自作目録では9月30日付になっています。
ウィーンの盲目のピアニスト、マリア・テレージア・フォン・パラディスのために作曲されたといわれています。彼女は3歳のとき視力を失いましたが、ピアノとオルガンそして歌手として活躍し、マリア・テレジア女帝により年金を支給されているほどの才能があったようです。また彼女は、当時ウィーンでモーツァルトの宿敵だったレオポルト・コゼルフの弟子でしたが、そんな事に頓着しないで曲を書いたモーツァルトは寛大な心の持ち主だったのか、世事に疎かったのかは分かりません。
今日はその第2楽章を聴いてみます。この楽章はピアノ協奏曲では非常に珍しいト短調で書かれていて、楽章の構成は美しい2部形式の主題に、5つの変奏から出来ています。 冒頭の弦楽の響きが哀愁を帯びた旋律で主題を奏でた後に、独奏ピアノが加わるところはとてもチャーミングです。
第1変奏はピアノが主導し、第2・第3変奏はオーケストラとピアノがそれぞれ主導し、第4変奏はト長調に転じます。第5変奏はまたト短調に戻り、主題の冒頭のモティーフが心残りのように何度が演奏され楽章を閉じます。


ピアノ協奏曲(第18番)変ロ長調 K.456/第2楽章 Andante un poco sostenuto ト短調

余談
一時の暑さが嘘のようにすっかり涼しくなりました。「暑さ寒さも彼岸まで」とはよく言ったものです。
当地のお米もほぼ刈入れが済んだようです。大きな天災の被害はなかったのですが、夏の高温のために作柄はあまり好ましくなかったようです。
昨日の「きらクラ!」では常連の方々のお名前をたくさん聴けました。BGM選手権では、BWV1000番さんをはじめ、ハイレベルな作品にすっかり魅了されました。
来週は300回記念の「ご自愛ステッカー大盤振る舞い」だそうで楽しみです。この番組がこんなに長く続くのは、何といってもふかわさん、真理さんの素晴らしいコンビネーションの賜物だと思います。これからも陰ながら応援していきます。

2018年9月8日土曜日

K.455 グルックの主題による10の変奏曲 ト長調

1784年8月25日付けで自作目録の7番目にこの変奏曲が記載されていますが、初演されたのは前年の3月23日の皇帝ヨーゼフ2世が臨席されたコンサートで即興で演奏された事で知られています。
この演奏会には、当時ウィーンで帝室作曲家として確固たる地位を築いていた大御所グルックも出席していて、モーツァルトがグルックに敬意を払って演奏したといわれています。(他にもこの演奏会では K.398(416e)の変奏曲も演奏されました。)
この曲のテーマは、グルックの書いたジングシュピール『メッカの巡礼』の一節で「わが愚かなる庶民どもは考える」という上から目線の言葉を滑稽に扱った旋律から取られています。
この頃、ウィーンでのモーツァルトの人気はうなぎ登りで、それをやっかんだ同業者からの妨害もあったようでしたが、このグルックは終始モーツァルトに好意的で、モーツァルトの演奏会にもたびたび姿を見せていたようです。
作品の主題はト長調。4分の4拍子で前半が4小節、後半が8小節の2部形式で、その後装飾的な10の変奏が次々と展開されます。5番目はト短調で、9番目のアダージョはこれまでにないような幅広い豊かな表現が見られ、最後は名人芸的な旋律が華々しく繰り広げられて終結します。


グルックの主題による10の変奏曲 ト長調 K.455(フォルテ・ピアノによる演奏)

余談
大きな自然災害が立て続けに私たちの国を襲っています。被災された方々の辛さを思うと心が痛みます。 一日も早い復興をお祈り申し上げます。
地球のプレートが複雑に入り組んだ境界上に位置する私たちの国は、多くの自然の恩恵と同時に、その活動の凄まじいエネルギーのスパークをまともに受ける宿命を背負っていますが、これだけ続くとさすがに落ち込んでしまいます。

2018年9月3日月曜日

K.454 ヴァイオリン・ソナタ 変ロ長調/第1楽章

K.451のピアノ協奏曲を作曲後、モーツァルトはピアノと管弦楽のための五重奏曲 変ホ長調 K.452ピアノ協奏曲(第17番)ト長調 K.453と矢継ぎ早に傑作を生みだします。
そして4月には、今日聴くヴァイオリン・ソナタ 変ロ長調を作曲しました。
ヴァイオリン・ソナタはモーツァルトが7才から32才の長い期間にわたって書き続けられた最も息の長いジャンルですが、この作品を含めた最後の4曲が1788年迄に作られ、いずれも完成度の高い充実した内容になっています。
このソナタは、当時ウィーンを訪れていたイタリア生まれの非常に優れた女流ヴァイオリニストのレジーナ・ストリナザッキのために書かれたことで有名で、4月29日にウィーンのケルントナートーア劇場で、彼女のヴァイオリン、モーツァルトのピアノによって初演されました。
前作のピアノ協奏曲にも見られた交響楽的なスケール感がこの作品でも反映されています。第1楽章はラルゴのゆったりした情感豊かな導入部で始まり、そのあとアレグロの主要部になり、第1主題とヘ長調の第2主題が活発に展開します。


ヴァイオリン・ソナタ 変ロ長調 K.454/第1楽章 Largo - Allegro

Link >> 第2楽章   第3楽章

<写真>ザンクト・ギルゲン(モーツァルトの母の出身地)市庁舎前のヴァイオリンを弾くモーツァルト像

2018年8月27日月曜日

K.451 ピアノ協奏曲(第16番)ニ長調/第1楽章

前作K.450(第15番)初演の1週間後に開催された第3回予約演奏会(3月31日)のために書かれたのが、このK.451の協奏曲で、完成は3月22日と自作目録に記されています。
この曲は前作よりさらにトランペット2、ティンパニに加わった大規模な楽器編成をとっていて、一般的にこの作品から交響的統一体としてのピアノ協奏曲が始まったとみなされています。
ここで聴く第1楽章は行進曲風に堂々と始まっていて、まさに交響曲の趣を呈しています。独奏ピアノも管弦楽と一体となって奏することが多く、前作のような華やでソリスティクな演奏は控えられていて、社交的な娯楽性からは一線を画しています。
この作品は当時の人々にとっても魅力的であったようで、1785にパリで出版され、さらに1791年にライン河畔のシュパイヤーでも出版されました。
当時のシュパイヤーの雑誌『ドイツ・フィルハーモニー協会音楽通信』(1792年5月16日号)にはこの曲について以下のような評論が掲載されています。

『モーツァルトの音楽を賛同・賞賛する者すべてにとって、この作品は・・・・何よも貴重なものである。作曲上のスタイルの独創性は明らかであり、豊かな和声、めざましいフレーズの展開、光と影の熟達した配分、そして他の多くの傑出した特質は、時代の模範的人物であったモーツァルトの喪失の大きさを深く実感させられる。・・・』(『モーツァルト全作品事典/ニール・ザスロー編/音楽の友社』より一部引用)


ピアノ協奏曲(第16番)ニ長調 K.451/第1楽章 Allegro assai(Cadenza:Mozart)

Link >> K.451 第3楽章

<写真>エンジェル・トランペット in Mari garden (8月25日撮影)

余談今週の「きらクラ!
しばらくお休みだった「きらクラ!」が再開されました。ふかわさん、真理さんのおしゃべりを聞いていると、心から楽しく癒されます。リスナーの投稿も実に興味深く、猛暑を乗り越えてレギュラーの時間が戻ってきた感じです。

2018年8月17日金曜日

K.450 ピアノ協奏曲(第15番)変ロ長調/第3楽章

1784年に書かれた2曲目のピアノ協奏曲K.450は変ロ長調。
この調性は管楽器が良く鳴る明るく軽やかな印象がありますが、この作品ではモーツァルトがこのジャンルで先駆的に管楽器の役割を拡大し、交響的なオーケストレーションを花咲かせたといわれています。
従来のオーケストラはフォルテピアノの伴奏をするだけとされていましたが、モーツァルトは同等の役割を与えて、管楽器に他声部と対等に主題展開の役割を受け持たせました。
また、ピアノにも高度な演奏技法が要求されていて、モーツァルト自身手紙の中で「汗をかかされる協奏曲だと思います」と述べています。
この作品もK.449と同様に予約演奏会のために作られ、3月24日にトラットナーの館で初演されました。
第1楽章は以前取り上げましたので、ここで聴く第3楽章はアレグロ、変ロ長調、8分の6拍子、ロンド形式で書かれています。明るく活気に満ち溢れていて、当時の順風満帆な彼の生活を反映しているようです。
管楽器はオーボエ、ファゴット、ホルンに加えこの楽章ではフルートが登場します。そしてカデンツァはモーツァルト自身が残したもので演奏されています。


K.450 ピアノ協奏曲(第15番)変ロ長調/第3楽章 Allegro (Cadenzas: Mozart)

Link >> 第1楽章 Allegro

余談
当地は昨日久しぶりにまとまった惠の雨が降り、今日はすっかり涼しくなり朝は22℃くらいまで下がり、随分過ごしやすくなりました。
ようやくモーツァルトを心安らかに楽しめる体調になってきました。彼の絶頂期のピアノ協奏曲の輝かしい響きは爽やかで生き生きしていて、聴くたびに心を洗われるようです。

2018年8月11日土曜日

【山の日に寄せて】Climb Every Mountain

今日は山の日。ちょっとモーツァルトから離れて、サウンド・オブ・ミュージックで歌われる名曲を聴いてみます。映画では、マリアが修道院長から励まされるシーンと、アルプスを背景としたエンディングで歌われています。
生きていく上で、とても大きな勇気・エネルギーを受ける歌です。


   Climb Every Mountain / The Proms 1994, song by Kiri Te Kanawa,from YouTube

<歌詞>
Climb every mountain, search high and low
Follow every byway every path you know
Climb every mountain, ford every stream
Follow every rainbow, till you find your dream

A dream that will need all the love you can give
Every day of your life for as long as you live
Climb every mountain, ford every stream
Follow every rainbow, till you find your dream
(Repeat)

<邦訳>(サウンド・トラック盤より引用)
すべての山に登りなさい 高いところも低いところも
あなたの知ってるすべての脇道を歩いてみなさい
すべての山に登りなさい すべての小川を渡り
すべての虹を追いかけなさい 夢が叶うまで

夢は与えられるだけの愛を与えてこそ叶うもの
生きている限り毎日いつでも
すべての山に登りなさい すべての小川を渡り
すべての虹を追いかけなさい 夢が叶うまで

余談
連日の猛暑で、すっかりバテてしまい、またまた長々と更新を怠りました。ごめんなさい。
しかし、今年の暑さは生まれて初めて体験するような猛烈さです。
今は体力的に無理になってしまった登山ですが、昔登った遠いアルプスの光景を思い浮かべ、心の中の涼を楽しみます。

2018年7月9日月曜日

K.449 ピアノ協奏曲(第14番)変ホ長調/第2楽章 

1784年にモーツァルトは6曲のピアノ協奏曲を書いています。その最初の曲がこの変ホ長調の作品です。
この曲は、彼の弟子であったバーバラ・フォン・プロイヤーのために書かれ、3月23日に彼女の自宅でこの曲の演奏会が行われたようです。
編成は弦の他にオーボエ2、ホルン2となっていますが、管楽器はなくともよいとなっていて、小編成で演奏可能で、技巧的にも比較的やさしくなっています。ですので、プローヤーの自宅での演奏会では管楽器なしで、弦の伴奏だけで行われたことも考えられます。
ここで聴く第2楽章はアンダンティーノ、4分の2拍子、変ロ長調で3部形式で書かれています。同じテーマが何度も出てきますが、そのたびにピアノは少しずつ変奏しています。


ピアノ協奏曲(第14番)変ホ長調 K.449/第2楽章 Andantino 変ロ長調

Link >> 第1楽章 Allegro vivace 変ホ長調

余談モーツァルトの自作目録
このK.449はモーツァルトが自身の作品の目録を付け始めた最初の曲としても有名です。
この目録には、作曲した日付、曲名、主題4小節などが記載されています。ありがたいことに、この内容は、大英博物館の「Mozart's Thematic Catalogue」 のサイトに全公開されていますので、誰でも見る事が出来ます。
モーツァルトがウィーンで作曲家として自活するためには、作品の出版も大切な収入源となるため、自身の作品をしっかりと管理していこうとする姿勢が、この作品目録の作成の動機になっているのではないかと考えられます。
とにかく、以前の作品で作曲時期が分からず、様々な研究を経てK番号も二転三転していた苦労が、この目録以降基本的になくなったことは喜ばしことです。

2018年6月10日日曜日

K.461(448a) 5つ(または6つ)のメヌエット

今日から1784年、モーツァルト28歳の年の作品を中心に取り上げていきます。
ウィーンで人気絶頂期を迎えたこの年の作品は、今までもかなり掲載してきましたので、重複しない範囲で順次取り上げていきたいと思います。
まず聴くのは、この年の1月に作曲されたメヌエットです。いわゆる『舞曲』というジャンルに入る作品ですが、宮廷や貴族の館で開催された舞踏会用の曲で、モーツァルトは生涯に亘って多くの作品を残しています。
舞曲にはいくつかの種類があり、古風ながら格調の高い貴族的な『メヌエット』、誰でも踊ることができた庶民的な『ドイツ舞曲』、それらの中間的な『コントルダンス』などが当時よく踊られていたようです。モーツァルト自身も熱狂的な舞踏会ファンで、時を忘れて踊りに興じていたようです。
K.461は本来6曲から構成されていますが、最後の曲8小節の断片のみで未完成です。ここでは第3番ト長調と第5番のヘ長調を聴いてみます。
第3曲は生き生きとしたトリルの反復による本舞曲と、半音階を多用したトリオが対照をなしています。
第5曲のトリオは後半にニ短調への翳りをみせて色彩を深めています。
編成は、フルート2、オーボエ2、ファゴット2、ホルン2、ヴァイオリン2部、チェロ、バスでいずれも2分位の演奏時間になっています。


5つのメヌエット K.461(448a)/第3曲ト長調


5つのメヌエット K.461(448a)/第5曲ヘ長調

余談
モーツァルトの舞曲というジャンルの曲は、いわゆる名曲集などには殆んど登場しません。
一般的に娯楽音楽として、芸術性は高くないと思われているためだと思います。現にこのブログでも舞曲を取り上げたのは今回が初めてです。
オーストリア、ことにウィーンの人々の舞踏好きは他に類を見なかったようで、舞踏会が頻繁に開かれて、貴族、大衆を問わず、それにかける情熱はすさまじかったようです。モーツァルトも嬉々として会場を闊歩していたことでしょう。

2018年5月29日火曜日

K.168 弦楽四重奏曲(第8番)ヘ長調 

しばらくピアノ曲が続きましたので、今日は初期の弦楽四重奏曲を聴いてみます。
この作品は、1773年(モーツァルト17歳)にウィーンを訪れた際に書かれた、6曲に及ぶ通称ウィーン四重奏曲の第1曲です。
ハイドンから受けた強い影響下で、自分の音楽を作り出そうとするモーツァルトの様々な試みがなされいます。
このK.168の第1楽章は不規則なフレーズ構成を持ち、そこで使用されているモティーフもややつぎはぎ的に感じられますが、楽章全体でこれらのモティーフの統一を試みていて、作品ごとに進化するモーツァルトの姿勢を感じさせます。
そしてこの約10年後には、名作「ハイドン・セット」を生みだすことになります。


弦楽四重奏曲(第8番)ヘ長調 K.168/第1楽章 Allegro

余談今週の「きらクラ!
暫く続いた「空耳」から解放されて、通常のきらクラ!に戻りました。
先週の「うたたねクラシック」の話題がありましたが、ずいぶん楽しそうでした。ふかわさんのブログにも載っていますが、ふかわさんがパジャマ姿でMCやるなんて、凄く斬新!!! こういう肩の凝らない企画が、敷居が高いといわれるクラシック音楽をより親しみやすくしますよね。
そして、今度の日曜日は水戸で公開収録です。私も応募しようと思いましたが、日程的に無理があるので断念しました。
その水戸でのBGMのお題が「水戸黄門」の主題歌なんて、これまた斬新!! 詩としては短かめですが、人生の応援歌的な内容で、また素晴らしい音楽が付くように思います。

2018年5月25日金曜日

K.332(300k) ピアノ・ソナタ(第12番)ヘ長調

1783年に書かれた一連のピアノ・ソナタを取り上げて来ましたが、最後はこのへ長調のソナタを聴いてみます。
先立つ2曲(K.330、K.331)に比べるとやや地味な印象がありますが、旋律的で豊かな楽想と、長調と短調の突然の交替よってもたらされるコントラストが際立っていて、非常に充実した作品として高く評価されています。
ここで聴く第2楽章はアダージョ 変ロ長調で、陰影に富んだきわめて美しい旋律を歌います。A-B-A-Bの二部形式になっていて、後半部分の細かく華麗な装飾音は自筆譜にはなく、楽譜出版の際にモーツァルトが書き加えたものと思われています。


ピアノ・ソナタ(第12番)ヘ長調 K.332(300k)/第2楽章 Adagio 変ロ長調
<写真>西蒲区夏井の水田風景・田植え後の稲がスクスクと育っていました。(5月24日撮影)

余談
長らく更新が滞っておりました。
ようやく1783年のピアノ・ソナタ作品群も最期を迎えました。
このK.332の第1、第3楽章もとても変化に富んで魅力的なのですが割愛させていただきました。
K.330~K.333の4つのソナタをモーツァルトは短期間で書いたと思われますが、それぞれの個性が輝く多様な作風には脱帽します。次から次へ新しい楽想が天からモーツァルトに降り注いでいるように思ってしまいます。

2018年5月8日火曜日

K.331(300i) ピアノ・ソナタ(第11番)イ長調/第3楽章

第3楽章は有名な『トルコ行進曲』です。
アラ・トゥルカ(トルコ風)とは、トルコの軍隊風にということで、第1拍に強烈なアクセントを置いたリズムを指していると思われます。
当時オスマン・トルコは、バルカン半島を越えハンガリーのあたりまで支配下に置いていて、ウィーンの人々にとっては脅威であると同時に、異国文化として興味の的であったと考えられます。
モーツァルトもトルコを舞台としたオペラ『後宮からの逃走』を作曲した後にこのソナタを書き、異文化に対する関心を示しています。
この楽章のみ主調が短調で、中間部に長調部分を持つ複合3部形式をとっています。


ピアノ・ソナタ(第11番)イ長調 K.331(300i)/第3楽章 Alla turca, Allegretto イ短調

<写真>新潟県五泉市のチューリップ畑

 ◆◆金沢・風と緑の楽都音楽祭2018 見聞録(下)◆◆ 
私にとってモーツァルトをテーマとするこのような音楽祭に参加したのは4回目になります。1回目はラ・フォル・ジュルネ東京2006年(生誕250年記念)、2回目はラ・フォル・ジュルネ金沢2009年、3回目は地元でラ・フォル・ジュルネ新潟2013年です。いずれも同じ音楽事務所の企画になるため、内容は似たものも多かったので、今回の金沢は違う音楽事務所のアーティストが主体のためとても新鮮でした。
 また、このような音楽祭に参加するに際して、貪欲にチケットを取るのはいいのですが、結局体力的に後半はきつくなるのが常でした。今回はかなりセーブして公演を絞ったのですが、それでも常に人ごみの中での集中力の維持は大変でした。特に単独行で知ってる人に一人として会わないという、アウェイ感一杯の中での鑑賞は孤独感も疲労に拍車をかけました。

そんな中で、その疲労感を吹き飛ばした公演の事を書きたいと思います。

■刺激的な爆演だったモーツアルテウムの交響曲第39番
 先回も述べましたように、ヘンリック・シェーファー指揮ザルツブルク・モーツアルテイム管弦楽団(MOS)は、ビブラートを殆んどかけない、ピリオド奏法の演奏のように聞えました。
 初日にこのオケでアイネ・クライネを聴いた時(指揮はリッカルド・ミナーシ)にすごく驚きました。輪郭のはっきりした響きで、強弱のめりはり、テンポのめりはりをことさら強調させているように感じました。その演奏のゾーンに入れば、それはそれで非常に楽しめるものではないかと思いますが、慣れるまでは少し抵抗があります。
 集中力の途切れかけた2日目の4つ目の公演で、このオケで交響曲第39番を聴きました。座席の上で半分眠りながら演奏を聴いていたら「このオケと39番の相性は凄くいいのではないか・・」との思いが突然湧きあがり、俄然目を覚ましました。特にメヌエット楽章は必聴だと思いながら、その第3楽章が始まりました。予想通りのアップテンポでめりはりの効いた素晴らしいリズム感が楽章を支配し、正にのりのりの演奏で体中の血液が躍りだしました。
 興奮冷めやらぬうちに始まった、最終楽章。これは物凄かった!! あの極端にテンポを揺らす演奏が「ど・ストライクゾーン」に入るのです。正に爆演!!音楽の爆発を目の前にする興奮に打ちのめされました。こんなにエキサイティングな音楽を聴いたのは何年ぶりだろう。この演奏を聴けただけでもこの音楽祭に来た価値はありました。
 帰りにこのCDを買おうと売り場に行ったら、売り子の方が、同じ質問を何度もされてうんざりした様子で、この演奏のCDは出てないとのことを告げられました。残念です。

■アマデウス室内オーケストラの広範なエンターテイメント
 最終日の最後に聴く公演に、アマデウス室内オーケストラ(ACO)とシン・ヒョンスのヴァイオリン協奏曲第3番を聴きました。
 ヒョンスさんの演奏は10年近く前に2度ほど聴いていて、その美しい響きと容姿に魅了された記憶があります。
 2曲目に舞台に現れたヒョンスさんを見てびっくり!メイクのせいか、以前と顔が変わった印象を受けて戸惑いました。演奏は相変わらず繊細で美しく、まるでお姫様が天上界の音楽を奏でているような、夢心地の気分になりました。
 ACOはオーケストラ・アンサンブル金沢より小編成で第1ヴァイオリンは5名程だったと思います。それだけにアンサンブルは緻密で、その優雅さに魅了されました。管楽器は邦人のエキストラが加わったようでした。
 このオケの驚きは3曲目に待っていました。地元ポーランドの作曲家キラールが1986年に書いたという「オラヴァ」という初めて聴く曲でした。簡潔な機関車のようなリズムを刻んで始まった曲は、うねるようなダイナミックな変奏を繰り返しながら盛り上がり、今まで耳にしたことのないような独自のハーモニーの世界を展開しすっかり心を持っていかれました。

 世の中にはまだ知らない魅力的な音楽が一杯あるんだ・・という思いを後に満足感一杯で帰路に就きました。関係者の皆様、本当に素晴らしい企画をありがとうございました。

2018年5月7日月曜日

K.331(300i) ピアノ・ソナタ(第11番)イ長調/第1楽章

『トルコ行進曲付き』の名前で広く親しまれてソナタです。とはいえ、楽章構成からすると通常のソナタからは例外的な存在となっています。
この第1楽章がアンダンテの変奏で始まり、中間楽章がメヌエットで、最後が「トルコ風」という個性的な楽章構成になっていますが、聴いてみると実に自然な流れで、全く違和感を感じない美しく快活な作品に仕上がっています。
ここで聴く第1楽章は、主題と6つの変奏からなり、主題は8分の6拍子の舟唄風のゆったりしたリズムをもっています。第3変奏はイ短調、第5変奏ではアダージョとなり、最後はアレグロの第6変奏で明るく楽章を締めくくります。


ピアノ・ソナタ(第11番)イ長調 K.331(300i)/第1楽章 Andante grazioso 6/8 主題と6変奏


 ◆◆金沢・風と緑の楽都音楽祭2018 見聞録(上)◆◆ 
5月3日~5日の2泊3日で金沢の音楽祭でモーツァルトを堪能させていただきました。 ここにその簡単な感想を書かせていただきます。音楽のド素人である私が、名立たるアーティストの演奏に感想を述べるなど全くおこがましいことですが、拙い個人的備忘録と一笑に付してください。

 3月に今回の企画が発表されて時点で、その豪華なアーティスト達に目を見張りました。 1地方都市でこれだけ国際的なアーティストを集めて、これだけの規模で音楽祭を開催できる石川県・金沢市の都市力、多くのボランティアを含む人材力に敬意を表します。本当に素晴らしいことだと思います。

私は全11公演を聴かせていただきました。その中でいくつかの印象的な演奏を取り上げさせていただきます。

■アシュケナージ指揮+辻井伸行ピアノ+OEK
 今回の音楽祭で最も注目したのは、ウラディーミル・アシュケナージ指揮、辻井伸行ピアノ、オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のピアノ協奏曲第21番、第26番でした。 アシュケナージは以前フィルハーモニア管弦楽団との弾き振りでモーツァルトのピアノ協奏曲全集を出していて、それは私の愛聴盤になっています。(正直彼の弾き振りを聴きたくもありましたが、80歳という年齢を考慮すると叶わぬ夢のようです)
 実際の演奏を聴いてみて、期待に違わぬ名演でありました。
 まずOEKの音色がとても美しく、ピアノ独奏に優しく寄り添ったアンサンブルは、控えめながら気品を感じさせる見事なものでした。
 そして辻井さんのピアノの響きは、以前聴いて心を動かされた感動が甦る、柔らかく繊細なタッチで至福感に包まれました。
 安心して身を委ねられる演奏で、それもこれも全体を見事にまとめた、アシュケナージ氏の手腕あってのものと思いました。
 余談ですが、辻井さんは『ハンディを乗り越えて、こんなに素晴らしい演奏をする』といった目で見られる時期はとうに過ぎたかと思います。これからは一人のピアニストとして、辻井さんの(楽譜を介さない)独自の世界で音楽と向き合って、その感性により磨きをかけて私たちに聴かせてもらえればと祈っています。
 老婆心ながら辻井さん忙しいスケジュールを見ていると、どうか体を壊さないように、健康第一で研鑽を積んでください、と心からお祈りします。

■多彩なソリストのピアノ協奏曲
 辻井さん以外にも、今回の音楽祭では多彩なソリストが名を連ね、同じ会場の(多分)同じピアノ(スタインウェイ)で聴き比べ出来たことも大きな収穫でした。
 20番=モナ・飛鳥、ザルツブルク・モーツアルテイム管弦楽団(MOS:Moarteum Orchestra Salzburg)
 22番=菊池洋子、MOS
 23番=三浦友理枝、MOS
 24番=田嶋睦子(地元・石川のピアニスト)、MOS
 以上の4曲を聴くことができました。全てオケはザルツブルク・モーツアルテイム管弦楽団でしたが、このオケはピリオド奏法のようにビブラートを殆んどかけない奏法で、音の輪郭がシャープ、言い方によっては痩せた音で、最初耳にした時はちょっと違和感を感じましたが、切れのあるリズム感で、強い推進力を発揮する演奏でした。
 音に溜めをつくって旋律を朗々と歌わせるタイプのソリストにとっては、MOSはやり辛いオケではなかったかと思いました。実際テンポ感でオケとせめぎ合うような場面もあったように思いました。
 また、それぞれのソリストの音を身近で聴いていると、同じピアノがソリストによって表情を変えるのが手に取るように分かり、大変興味深いものでした。このような音楽祭ならではの醍醐味でした。

■菊池洋子さんの存在感溢れる演奏
 協奏曲の中で、指揮者、ソリスト、オーケストラの立ち位置の関係は様々な形があると思いますが、私はソリストが主導権を発揮する演奏が圧倒的に好きです。ソリストの感性のままにオケを引っ張って行くような演奏に心は燃えます。
 そんな中で、私が最も印象深かったピアニストは、菊池洋子さんでした。
 個性的なMOSと互角に渡り合い、むしろ主導権を取っていると感じさせる「男前」な演奏でした。ピアニシモの繊細なタッチから、堂々たるフォルテまで、ダイナミック・レンジの広い演奏は、22番の規模の大きな交響的構築をもった曲との相性も抜群でした。
 菊池さんは海外での演奏機会も多いようで、MOSとの共演もあったようです。そのような多くの場数を踏んだ安定感・存在感は、音楽に生き生きとした生命力をもたらしました。
 驚くことに菊池さんはフォルテピアノも演奏されていて、最終日のフォルテピアノによるソナタ、変奏曲も聴かせていただきましたが、現代のピアノとは別世界の音楽を聴くことができました。機構の違う2種類の楽器を弾きこなすなんて、生易しいことではないと思うのですが・・・。とにかくまた聴いてみたいと思わせる魅力溢れるピアニストでした。

2018年5月2日水曜日

K.330(300h) ピアノ・ソナタ(第10番)ハ長調/第3楽章

これから取り上げる3曲のピアノ・ソナタ(K.330、K.331、K332)はK.333と同様に、1783年に書かれた作品で、この3曲は翌年の1784年にウィーンのアルターリア社から出版されています。
それぞれのソナタは短期間書かれているにもかかわらず、互いに異なった特異性を備えていて、とても充実した作品群となっています。
K.330はアルフレート・アインシュタインが「かつてモーツァルトが書いた最も愛らしいもののひとつ」と評している作品で、ウィーンで忙しく活躍しているモーツァルトの明るく前向きな生活を映し出しているようです。
以前第1楽章を取り上げていますので、ここでは第3楽章のアレグレットを聴いてみます。
この楽章はほとばしるような快活な主題で始まる、ソナタ形式ですが、展開部では民謡にインスピレーションを受けた小さな間奏曲を代用していて、意外性を発揮しています。


ピアノ・ソナタ(第10番)ハ長調 K.330(300h)/第3楽章 Allegretto
Link >> 第1楽章

<写真>新潟市秋葉区 新津川の河川敷の水仙(4月下旬撮影)

余談
この頃のモーツァルトのピアノ・ソナタは「愛らしい」という形容がぴったりな作品群です。
モーツァルトはこれらの作品を演奏会で弾いたり、弟子の教材として使ったり、出版したりと、多方面にわたって活用し、収入を得ていたと思われます。
ウィーンの寵児として八面六臂の活躍をするモーツァルトの絶頂期の輝きに満ちた作品群と言えるでしょう。

2018年4月26日木曜日

K.333(315c) ピアノ・ソナタ(第13番)変ロ長調/第3楽章

第3楽章はアレグレット・グラツィオーソ、4分の4拍子で、ロンド形式で書かれています。
主要な主題の他に2つの副主題を持っていて「A-B-A-C-A-B-A」の形式になっていて、最後のAの前にカデンツァが置かれています。
明るく軽快な主題ですが、中間部では一時短調に転じて豊かな表情を見せています。
全体的に華やかで伸びやかでいながら気品も兼ね備えていて、非常に魅力的なソナタの最後を見事に締めくくっています。


ピアノ・ソナタ(第13番)変ロ長調 K.333(315c)/第3楽章 Allegretto grazioso

余談
Mari Gardenの花々とともにK.333の全楽章を聴いてまいりました。
モーツァルトはどの曲も素敵な作品ですが、この曲は特に魅力を感じます。
ピアノを弾かれる方にとっては、特別に高度な技法を必要とされる作品ではないと思いますが、そのシンプルさや親しみやすさの中にこそモーツァルトの美しさの真髄を見る思いがします。

2018年4月23日月曜日

K.333(315c) ピアノ・ソナタ(第13番)変ロ長調/第2楽章

第2楽章はアンダンテ・カンタービレ、4分の3拍子で、ゆったりと歌うような優しさに溢れた楽章になっています。
ソナタ形式ですが、展開部も比較的長めに設定されていて、繊細なハーモニーがいいようのない美しさを醸し出しています。半音で動きながら大胆な不協和音も挟んで、見事な陰影を浮かび上がらせています。


ピアノ・ソナタ(第13番)変ロ長調 K.333(315c)/第2楽章 Andante cantabile 変ホ長調

余談今週の「きらクラ!
今回のBGM選手権は問題が・・・・難問?なのか、無機質な数字の羅列なんで、結局どんなBGMを当てても、それなりの効果を発揮しそうな感じがしました。
採用された4つの作品はどれも個性的で、予想通りの効果を上げていました。個人的には「星条旗よ永遠なれ」が面白かった。
最後の真理さんの1曲で、モーツァルトのクラリネット協奏曲がかかったのは嬉しかったです。ポール・メイエさんの演奏は私も何度か聴かせていただきましたが、音色に深みがあって素晴らしい演奏だった記憶が甦りました。

2018年4月22日日曜日

K.333(315c) ピアノ・ソナタ(第13番)変ロ長調/第1楽章

軽やかな流れるような出だし、変幻する豊かな旋律、見事な構成で織なされる音のタペストリーに、モーツァルトのピアノ・ソナタの最高峰ともいわれるこのソナタは、交響曲「リンツ」と同時期に書かれたと最近(1980年代)の研究でわかりました。
冒頭の旋律がJ.C.バッハの≪ソナタ≫作品17-4に似ていることから、以前は1778年にパリで作曲されたと思われていました。
この第1楽章は、愛らしく流れるような軽快な旋律のアレグロで、ソナタ形式で書かれています。流麗さの中にシンコペーションや強弱の対比などの効果がバランス良く配置されています。


ピアノ・ソナタ(第13番)変ロ長調 K.333(315c)/第1楽章 Allegro 4/4 ソナタ形式

<写真>ムスカリ (in Mari garden 2018.4.20)

余談 ケッヘル番号について
所用に時間を取られ、暫く更新をお休みしておりました。
このK.333のソナタは私も大好きな曲のひとつです。いかにもモーツァルトという繊細な美しさに溢れています。
ところで、これから順次取り上げるK.330~K.333の4曲のソナタは、ケッヘルの6版(1964年出版)まで1778年から1779年にかけてのパリ滞在中に書かれたものだと考えられていました。
しかし1980年代にプラートの自筆譜の筆跡研究と、タイソンのX線を用いた用紙の透かしの研究で、1783年末の作品であることがかなりの精度で判明しました。
とすると、このK.333(315c)の場合、ケッヘル初版の番号「333」→6版の番号「315c」→7版?の番号「425a」という番号を変遷する形になってしまい、一体どれれが本来の年代順の番号なのかと……混乱を招いてしまいます。
そこで最近では、一般に普及している初版の番号で呼称し、括弧書きの最新の年代順番号は添書程度に扱うことが普通になってきました。
これからも研究によって作曲時期に変更が加わる可能性は十分考えられますから、その方が現実的です。
ということで、この愛らしいソナタは「333」というとても覚えやすい番号とともに、これからも広く親しまれていくでしょう。

2018年4月10日火曜日

K.425 交響曲(第36番)ハ長調「リンツ」/第1楽章

あまり居心地のよくなかったザルツブルクへの帰省を終えて、1783年の10月末にモーツァルト夫妻はウィーンへの帰途につきます。そしてその途中にリンツに立ち寄り、モーツァルトの大ファンだったトゥーン侯爵の大歓迎を受けます。
そしてその侯爵の肝入りで、11月4日に開かれた演奏会のために、この交響曲は作られました。モーツァルトは『何しろスコアをひとつも持ってこなかったから、大急ぎで曲を書き上げなきゃいけません』と10月31日付けの父宛の手紙を残しています。
つまり、ちょっと信じがたい事ですが、演奏会までの僅か3日~5日間でこれだけの曲を書き上げたということになります。
どんなに急いで書いたからといって、作品の質を落とすことのないのがモーツァルトの常ですが、この作品も伸びやかで気品に溢れ、とても愛されています。
ここで聴く第1楽章は付点リズムを伴うアダージョの荘重な序奏に始まり、アレグロの晴れやかな主部が続き、鮮やかな対照をなしています。


交響曲(第36番)ハ長調 「リンツ」K.425/第1楽章 Adagio - Allegro spiritoso
Link >>> 第4楽章 Presto

<写真>新潟市・鳥屋野潟公園の桜(4月5日撮影)

余談今週の「きらクラ!
先週のやぱげーのさんの連続投稿で“木々のうちで何より愛らしいもの”の詩に3人の作曲家の別の曲が紹介され、とても興味深く聴かせていただきました。同じ詩にこれだけの作曲家が曲を付けるということは、それだけこの詩が魅力的なんだと思いますが、そのよさを知るためには、語学力が・・・残念。
「ここ好きクラシック」でシベリウスの交響曲第2番の3~4楽章が紹介されましたが、この部分は私も大好きなところです。生演奏で聴くと本当に胸が熱くなります。
今週もふかわさん、真理さんの明るい笑い声に溢れた素敵な内容で、心から堪能させていただきました。

2018年4月7日土曜日

K.424 ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲 変ロ長調

モーツァルトは1783年の夏に妻コンスタンツェを連れて、結婚の挨拶のためにザルツブルクに帰省しました。しかし、もともと結婚に反対だった父は彼らを歓迎はしなかったようです。
約3ケ月ザルツブルクに滞在している間に、モーツァルトは旧知のミヒャエル・ハイドン(有名なヨーゼフ・ハイドンの弟)が大司教から依頼されてた6曲のヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲を、重い病気のため残りの2曲を完成できないでいることを知ります。
モーツァルトは少年期から彼の影響を強く受けていて、作曲家としても彼を尊敬していました。そんな彼の窮地を救うためにモーツァルトは僅か2日間で2曲の二重奏(K.423とここで聴くK.424)を完成させたといわれています。
作品は3楽章形式で、他の作曲家が作ったことが分からないように、調性を選び、ハイドンの作曲様式を取り入れて書かれているそうです。 ここで聴く第2楽章はアンダンテ・カンタービレで、ヴィオラは伴奏にまわり、ヴァイオリンが旋律を奏でます。


ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲 変ロ長調 K.424/第2楽章 Andante cantabile 変ホ長調 6/8

余談
モーツァルトとヨーゼフ・ハイドンとの関係は、ハイドンセットと呼ばれる弦楽四重奏曲集などでよく知られていますが、その弟であるミヒャエル・ハイドンとも深いつながりあります。
ミヒャエルは兄と同じくウィーン聖シュテファン教会少年聖歌隊に入り、1757年からハンガリーで楽長として活動していました。そして1763年2月、ザルツブルクの宮廷楽団の首席奏者だったレオポルトが副楽長に就任したのに伴い、その後任としてミハイルが首席奏者となりました。さらに1781年、モーツァルトがザルツブルクを去ったとき、その後任となり、以後、終世ザルツブルクを離れませんでした。
兄のヨーゼフの陰に隠れてあまり目立ちませんが、モーツァルトが敬愛するほどの才能があったようです。
ミヒャエルはモーツァルト作曲したこの二重奏曲のオリジナル楽譜を、思い出の品として生涯大切にしていたと伝えられています。

2018年4月5日木曜日

K.418 アリア 「あなたに明かしたい、おお神よ」

このアリアは、当時ローマで活躍していたアンフォッシのオペラ『無分別な詮索好き Il curioso indiscreto』がウィーンで初公演される際、主役のクロリンダ役となるアロイジアのために書いたアリアの一つです。
れっきとした作曲家のオペラに、別の作曲家のアリアを挿入するということは、とても考えにくいことですが、当時はよくあった事のようで、モーツァルトもこの種の挿入アリアを数曲残しています。
このオペラが1783年6月30日にブルク劇場で上演されたとき、アロイジアが歌ったモーツァルトの曲(このK.418とK.419)だけが受けたといいますから、アンフォッシは面目が立ちません。このような事態を避けるために、挿入アリアの上演には妨害活動もあったようです。
歌詞の内容は、許婚のいる伯爵に恋心を抱いてしまったクロリンダが、その苦しい胸の内を明かすものです。前半は伯爵への愛を歌うアダージョ、後半は許婚への嫉妬心を表したアレグロになっています。


アリア 「あなたに明かしたい、おお神よ」 K.418

<写真>新潟市西蒲区仁箇の水芭蕉自生地にて(3月29日撮影)

余談
先回の「きらクラ!」は新年度の明るく、笑いの絶えない楽しいスタートでした。 ふかわさんは何回か笑いのツボにはまったようです。
私も投稿の中で、『“マ・メール・ロア”が好きすぎて、全てのBGMのお題にこの曲をあてて投稿する』というラベル愛に溢れた方には、大笑いしてしまいました。逆転の発想で凄く新鮮でした。皆さんBGMを考える過程で、いろんな心の遊びをしているようで、とても愉快でした。
また、ブロ友の神戸のやぱげーのさんがリクエストされた、バターワースという作曲家は初めて知りました。その広範な守備範囲に感心してたら、ご兄弟の千代田卜斎が名付け親で「先生ありがとう」という素敵な投稿が読まれました。W採用なんてめったにありませんよね・・・・。やはり投稿のクオリティーが高いからこそ、これだけ頻繁に採用されるんですね・・・素晴らしい!!!

2018年4月1日日曜日

K.417 ホルン協奏曲(第2番)変ホ長調

この作品は、一般的に第2番と呼ばれていますが、近年の研究でモーツァルトが完成させた最初のホルン協奏曲であると考えられています。
自筆譜には「ヴォルフガング・アマデ・モーツァルト、ロバ、牡牛、間抜けなロイドゲープを憐れむ、ウィーンにて、1783年5月27日」と記されていて、このことは以前に取り上げた、ホルン協奏曲ニ長調 K.412、ホルン五重奏曲 変ホ長調 K.407などと同様で、ホルンの独奏曲で長年の親友であるロイドゲープは欠かせない存在となっています。
3楽章形式で、ここで聴く第1楽章は協奏風ソナタ形式で、明るい弦楽の序奏の後に、ホルンの旋律が伸びやかに歌われます。


ホルン協奏曲(第2番)変ホ長調 K.417/第1楽章 Allegro maestoso

余談
早いもので今日から4月です。全国的に晴天が続き、まことに穏やかな春です。
当地もぼちぼち桜の開花宣言が始まったようです。このままお花見日和が続いて陽光の下で満開の桜をモーツァルトの音楽とともに楽しみたいものです。

2018年3月28日水曜日

K.398(416e)6つのピアノ変奏曲 ヘ長調

今日から1783年の作品を主に取り上げていきたいと思います。
モーツァルトがウィーンに定住して2年目、自立した作曲家としてとても充実した時期を迎えます。
演奏会も頻繁に開かれましたが、この変奏曲は3月23日の皇帝ヨーゼフ2世も臨席した会で即興で演奏されたものです。この会は大成功で、大変な盛り上がりを見せ、この変奏曲はアンコールでも再演されたようです。
曲の主題は、当時コミック・オペラ作家として活躍していたパイジェルロのオペラ『哲学者気取り』の中の「主よ、幸いあれ」から取られています。この主題は22小節と長いものであるため、変奏は繰り返しなしで、非常に自由な形で進行していて、実際の演奏会での即興で弾かれた雰囲気が伝わってきます。
この曲の楽譜は、演奏会の後にモーツァルトが書き留めたと思われています。そして1786年にはウィーンのアルタリアから印刷譜として出版されました。


6つのピアノ変奏曲 ヘ長調 K.398(416e) (フォルテ・ピアノによる演奏)

<写真>新潟市・白山公園の梅(2018.3.28撮影)

余談
連日さわやかな晴天が続く今日この頃、当地は梅が満開の時期を迎えています。 青空の下、梅の可憐な花々は、春の喜びに光り輝いているようです。
モーツァルトの音楽が一番似合う時期が到来しました!

2018年3月26日月曜日

K.427(417a)ミサ曲 ハ短調

ウィーンに移り住んでから、モーツァルトは純粋な教会音楽をわずか3曲しか書いていません。ザルツブルクの大司教に仕えていた頃、その命に従いあれだけ頻繁に作曲していたことを考えると隔世の感があります。
その僅か3曲は、遺作となったレクイエムK.626、アヴェ・ヴェルム・コルプスK.618、そしてこのハ短調ミサ曲で、いずれも大きな存在感を放っています。
このミサ曲は、モーツァルトが他人からの注文・依頼でなく、自発的な動機で書いた極めて稀な曲と考えられています。というのは、1782年に父親の反対にあったコンスタンチェとの結婚に際して「結婚にこぎ着けられたならば、ミサ曲を1曲書いて奉納いたします」と神に願をかける旨の手紙が残っているからです。
そして1783年にコンスタンツェを連れてザルツブルクに帰省した際に、この曲の未完だった部分を何らかの形で埋めて、聖ペテロ教会で演奏されたといわれています。 最終的にキリエとグローリア以外は未完に終わり、その後の補完された形で演奏されています。曲の編成は非常に大きく、演奏時間も1時間近くかかります。
ここで聴く第1曲のキリエは、弦楽の悲痛な前奏で始まり、雄渾な合唱が歌い上げ、典雅なソプラノ独唱が続きます。このソプラノは妻のコンスタンツェに歌わせる事を想定したものといわれています。


ミサ曲 ハ短調 K.427(417a)/Kyrie Andante moderato ハ短調

余談
関東は桜が満開のようですが、当地はもう暫くかかりそうです。雪融け後で花の開花前という今の時期は、なんとも殺風景ですが、これから緑も芽吹き待ちに待った百花繚乱の季節がやってきます。こころも浮き立ちます。
そんな今日の「きらクラ!」で、ドビュッシーの幻想的で浮遊感のある音楽は、心を夢心地にさせてくれました。比類ない独自の世界を切り開いて下さった偉大な作曲家に感謝!!

2018年3月19日月曜日

K.386 ピアノと管弦楽のためのロンド イ長調

この曲の自筆譜は、モーツァルトの死後、1799年に妻のコンスタンチェによって、他の多くの自筆譜と一緒に出版社に売却されました。その際この曲の最後の1枚が欠けていたため、この曲はさらに転売を繰り返され、散逸してしまう運命を辿ります。
その後、近年まで何人かの研究者の努力によって再収集され、そして再現され現在の形で演奏されています。
このように、モーツァルトの自筆譜の中には、部分的に散在していたり、散逸しているものも少なくありません。この曲のように幸い再収集・再現されたものもあれば、失われてしまったものもあります。
このロンドは1782年に、本来はピアノ協奏曲第12番 K.414(385b)の終楽章として書かれていたと思われますが、途中で放棄されてしまった草稿、または代用楽章と考えられています。確かに K.414の主題との共通点があります。
アレグレット、4分の2拍子で、軽快なピアノのメロディーとオーケストラの明るい音色の協演が、心地よく響きます。フォルテピアノの演奏で聴いてみます。


ピアノと管弦楽のためのロンド イ長調 K.386 /Allegretto

<写真>ヴァッハウ渓谷 デュルシュタインにて

余談今日の「きらクラ!
「びっくりシンフォニー」の投稿(同郷の≪調子のよい鍛冶屋のせがれさん≫)がふかわさんに大受け!!放送事故級の涙の大笑いを誘いました。私も小学校の時に似たような音楽の黒歴史があり、つられて大笑いしてしまいました。
「はじクラ」ではジョージ・ウィンストンの演奏が流れました。ジャズとクラシックが上品に融合されていて、とても心地よく聞かせていただきました。
そして、BGM選手権のお題が発表されました。当然のドビュッシーからの選曲となりますが、ドビュッシーの曲はBGM選手権で最も採用の多い作曲家のような気がします。今回のお題には私も久しぶりにボツ覚悟でトライしてみますが、どの曲をあててもそれなりに収まり、なかなか個性を出しにくく、ドビュッシーの作品数を考えると、選曲が他の投稿者と大いにかぶりそうな気がします。

2018年3月13日火曜日

K.383 アリア「わが感謝を受けたまえ、やさしい保護者よ」

1782年に書かれたソプラノのためのコンサート・アリアを聴いてみます。
この年、モーツァルトはオペラ『後宮からの逃走』K.384の作曲に傾注していましたが、このアリアはその間にアロイジア・ウェーバーの音楽会のために書かれたと推測されています。
アロイジアは申すまでもなく、モーツァルトが恋い焦がれたソプラノ歌手で、素晴らしい技量の持ち主でした。彼女のために書かれた何曲かのアリアはその高い技量を存分に発揮させる作品になっていますが、この曲に限っては平易なつくりになっていて、彼女のたのために書かれたものではないという説もあります。
メロディーは『後宮からの誘拐』第2幕フィナーレの四重唱に似ています。
作詞者は不明ですが、ドイツ語の歌詞の内容は……
『私の感謝をお受けください、心やさしい保護者(パトロン)たちよ! その感謝を、私の心が語る通りに、そんなに熱烈に声高くあなたに告げることは、男ならできもしましょうが、女にすぎない私にはとてもできは致しません。でも、お信じください、私は生涯の間あなた方の仁慈をけっして忘れることはないでしょう。』
となっていて、コンサートの最後に感謝の気持ちで歌われていたことも考えられます。


アリア「わが感謝を受けたまえ、やさしい保護者よ」K.383 Andante ト長調

余談今日の「きらクラ!」BGM選手権
今回のお題の「ロメオとジュリエット」というと、プロコフィエフの「モンタギュー家とキュピレット家」の音楽が私の頭に貼りついてしまっていて、どうにも新しいイメージがわかず無念の不投稿。 しかし、採用されたリスナーの皆様の作品は、今回も粒ぞろい!!
1曲目「テレマンのアリア」…しっとりした抒情的な旋律がピッタリ。
2曲目「ハンガリー舞曲第1番」…全く予想外の選曲。切迫感が伝わってきて意外なマッチング。
3曲目「エクリプス」……尺八と琵琶の音楽を当てるなんて…ショッキング。凄い発想。参った。
4曲目「スクリャービンのノクターン」…シンプルで繊細なピアノの調べが二人の心情に寄り添うようで実に美しい。この作品の投稿者・出入飛鳥さん(やぱげーのさんの分身)は兄弟合わせて17回目(?もっとかも知れません)の採用かと思われます。驚異的な採用実績で正にMr.BGM選手権!
どれも甲乙つけがたい高レベルの作品ばかりで、たくさんの感動をいただきました。ありがとうございました。

2018年3月4日日曜日

K.415(387b) ピアノ協奏曲(第13番) ハ長調/第1楽章

同じ時期に予約演奏会のために続けて書かれた、ハ長調のピアノ協奏曲を聴いてみます。
モーツァルトのハ長調の管弦楽曲によくみられるように、この曲もトランペットとティンパニーが用いられていて、祝祭的で堂々とした曲想を奏でています。同じハ長調の名作ピアノ協奏曲(第21番) K.467やジュピター交響曲を彷彿させる風格を感じさせます。
また、当時モーツァルトが研究していた対位法的な手法が、ピアノ協奏曲では初めてこの曲に反映されているともいわれています。
初演は1783年3月11日、ブルク劇場におけるアロイージア・ランゲの演奏会でした。そして引き続き3月23日に皇帝ヨーゼフ2世の臨席をあおいだ演奏会でも取り上げられ、大成功であったという記録が残っています。


ピアノ協奏曲(第13番)ハ長調 K.415(387b)/第1楽章 Allegro

<写真> ウィーン フォルクス庭園にて

余談◆  いしかわ・金沢の音楽祭がすごい!!
ここ最近の陽気で、1mもあった雪も瞬く間に溶けてしまいました。春の足音が聞えてきました。
春といえば、当地で開催されていたラ・フォル・ジュルネが緊縮財政のため今年から開催されなくなりました。残念です。
ところで、同じく金沢も昨年からラ・フォル・ジュルネを止めましたが、こちらは何と!!独自企画で、今年はモーツァルトの音楽祭をやるそうです!!
「風と緑の楽都音楽祭2018」のプログラムを見てビックリ!!!!
参加ア―ティストが・・・・・ウラディーミル・アシュケナージ、ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団、アマデウス室内オーケストラ、ライナー・キュッヒル(Vn)、辻井伸行(pf)・・・・・・等々、錚々たるメンバーのオンパレード!!!
各公演はラ・フォル・ジュルネと同じ形式で、1時間以内で料金は3千円以内!!
こういう企画を見てしまうと、私の全ての自己抑制機能は崩壊してしまいました。
夢中で先行予約に申込、11公演に申し込みました。特にアシュケナージ指揮、オーケストラ・アンサンブル金沢、辻井伸行さんの、ピアノ協奏曲21番、26番が取れたことはとても嬉しかったです。それにしても、これだけのアーティストを集められる金沢の企画力・都市力は凄いです。『加賀百万石』の威光にただただ平伏すのみです。感謝・感謝で参加させていただきます。
今年のゴールデン・ウィークは、数年ぶりに金沢でモーツァルト三昧です!!!。

2018年2月26日月曜日

K.413(387a) ピアノ協奏曲(第11番)ヘ長調

ウィーン時代の第2作目のピアノ協奏曲を聴いてみます。
このK.413(387a)は第12番(K.414(385p))の後に書かれていて、1782年の12月から翌年にかけて完成したと考えられています。
モーツァルト自身の予約演奏会のために書かれたもので、この時期、ザルツブルクの父宛に以下のような手紙を書いています。
「ところで、予約演奏会のための協奏曲が、まだ二つ足りません。 出来た協奏曲は、むずかしいのとやさしいのの丁度中間のもので、非常に華やかで、耳に快く響きます。もちろん空虚なものに堕してはいません。あちこちに音楽通だけが満足を覚える箇所もありながら、それでいて、通でない人も、なぜか知らないながらも、きっと満足するようなものです。」(モーツァルトの手紙(下)P.85)
一般の市民にも、音楽通にも受け入れられる作品を心がけていたモーツァルトの配慮がうかがえます。
ここで聴く第1楽章は明るく屈託のない、非常に聴きやすい曲想になっています。カデンツァはモーツァルト自身が残したもので演奏されています。


ピアノ協奏曲(第11番)ヘ長調 K.413(387a)/第1楽章 Allegro

<写真>ウィーン旧市街からの王宮のミヒャエル門

余談きらクラ!」4月からも継続!!
2週間のオリンピック休暇をいただいておりました。本当に沢山の感動をいただきました。選手の皆様ありがとうございました。そしてお疲れさまでした。
ところで、本日の「きらクラ!」で4月からの続投の発表がありました。ふかわさんは群馬の公開収録で、ファンの皆さんに直接お礼を言いたかったんでしょうね・・・・。
でも本当に良かったです。スタッフの皆様これからも末長くよろしくお願いします。

2018年2月13日火曜日

K.404a 6つの前奏曲とフーガ

モーツァルトがバッハを研究する過程で書いたと思われる曲をもうひとつ聴いてみます。
この作品はバッハの「平均律クラヴィーア曲集」等のフーガに前奏曲をつけた構成で6曲からなり、ヴァイオリン、ビオラ、チェロの弦楽三重奏に編曲されています。
1782年にウィーンで書かれたと思われますが、モーツァルトが書いたという確かな証拠はありません。
フーガのもつ幾何学的な音のハーモニーに、モーツァルトの音楽の柔軟な美しさがブレンドされて、独特な空気感を感じさせます。
後にモーツァルトはこれらのバロック音楽の語法を、自己の様式に巧みに取り込み、多くの名作を生みだしていきます。


6つの前奏曲とフーガ K.404a/第1曲 前奏曲 ニ短調

<写真>新潟市:やすらぎ堤から望む信濃川

余談◆ 今日の「きらクラ!
先週の公開収録の反響が多く寄せられていました。やはり熱心な「きらクラ!」ファンで埋め尽くされた、とても楽しい催しであったことが伝わってきました。私も2年前に長岡の公開収録に参加した記憶が甦りました。
ところで最後に「コダマッチ講演会」の情報があり、びっくり!参加したくなりましたが、ちと遠すぎて残念。今度は是非近間にお越しいただきたいと思います。
巷では4月からの番組改編のニュースが多々流れていますが、「きらクラ!」は絶対現在のスタッフで続くと思います。いや、続いてもらわないと困ります!!
ふかわさんも番組の中で、次回の公開収録のことに話題にしてましたから、もう継続の内示はあったと推測します。「きらクラ!」を長寿番組に!!!

2018年2月6日火曜日

K.399(385i) ピアノのための組曲 ハ長調

この時期(1782年)、モーツァルトはスヴィーテン男爵(当時48歳)との出会いにより、バッハ、ヘンデルなどのバロック音楽を知り、大きな影響を受けたといわれています。
スヴィーテン男爵は外交官として外国に赴任中に、バロック音楽の楽譜収集に熱中し、とりわけ最後の赴任地であったベルリンではバッハの貴重な楽譜を入手したそうです。そしてウィーン帰郷後に、毎日曜日の私的演奏会でそれらの作品を演奏していたそうです。
その会に参加していたモーツァルトは父宛の手紙に・・・
『ぼくは毎日曜日の12時に、スヴィーテン男爵のところへ行きますが、そこではヘンデルとバッハ以外のものは何も演奏されません。
僕は今、バッハのフーガの蒐集をしています。ゼバスティアンのだけではなくエマーヌエルやフリーデマン・バッハのも。それからヘンデルのも。・・・』(岩波書店「モーツァルトの手紙(下)P54)と書いてあり、モーツァルトが熱心に研究していた様子がうかがえます。
そしてそれらの研究の成果として何曲かの作品がありますが、何故か未完のものが多く、この組曲も4曲目のサラバンドの途中で終わっていますが、ここでは2曲目のアルマンドを聴いてみます。知らないで聴くとバッハの作品かと思ってしまいます。


ピアノのための組曲 ハ長調 K.399(385i)/2 アルマンド Andante ハ短調

<写真>新潟市:りゅーとぴあ周辺の雪景色

余談
モーツァルトにとってもバッハの音楽は大きな指針であり、彼の作品をより豊かにしたインスピレーションの源泉のひとつであったことは間違いないと思われます。
タイプとしては全く異なったイメージがありますが、その二人の創り出した音楽は、光り輝く偉大な双璧として私たちを魅了し続けます。
ある音楽家が『音楽の世界で、最も高い山はバッハである。そして最も美しい山はモーツァルトである』と言っていましたが、言い得て妙です。

2018年2月3日土曜日

K.409(383f) メヌエット ハ長調

1782年5月に書かれた「あるシンフォニーのメヌエット」を聴いてみます。
この曲は以前、交響曲(第34番)ハ長調 K.338 の第3楽章であると考えられていました。しかし楽器編成などから、現在は演奏会の挿入曲であったと思われています。
モーツァルトの残した作品には、書かれた時期やその目的などがよくわからないものが多数ありますが、この曲の場合、その輝かしい祝祭的な雰囲気や、管楽器の協奏的な手法など、独立した1曲の作品としてふさわしいとも思われます。
編成は弦楽5部に、フルート、オーボエ、ファゴット、ホルン、トランペット各2本、それティンパニーになっています。


メヌエット ハ長調 K.409(383f)

<写真>ウィーン旧市街地にて

余談
NHK BSの「平成細雪」(全4回)の最終回が先日放送されました。
毎週楽しみに見ていた作品で、特にエンディングに流れるバッハの「G線上のアリア」の清廉なスキャットが作品の品格を一層高める素晴らしいBGMでした。
またモーツァルトの「アヴェ・ヴェルム・コルプス」が最終回の1場面に使われていましたが、こちらの方は音楽の素晴らしさに場面映像が追いついていないように感じました。
さらに昨日、テレ朝「越路吹雪物語」で主人公が喫茶店で失恋する場面で、何と、モーツァルトの「レクイエム」の「ラクリモサ」が流れました。『………っ、ここで使うの……?』と思ってしまいました。(ちょっとうるさいモーツァルト・ファンの呟き)

2018年1月31日水曜日

K.388(384a) セレナード(第12番) ハ短調「ナハトムジーク」

ウィーンに移住したモーツァルトは多忙な日々を送っていました。
1782年はオペラ「後宮からの逃走」の初演、そして8月にはコンスタンツェとの結婚を控えていました。
そんな忙しない7月に、モーツァルトはこの短調のセレナード(通称「ナハトムジーク」)を書いています。作曲の動機は結婚資金の捻出のためとか、バッハやヘンデルの曲に触発されたとかの説がありますが、真相は不明です。
全部で13曲残されているセレナードの中で唯一の短調であること、そして楽器編成が4組8本(オーボエ、クラリネット、ホルン、ファゴット各2本)の管楽器編成であること、4楽章形式であることなどで、独自な存在になっています。
通常このジャンルの曲は明るく気軽な雰囲気で書かれましが、この曲は冒頭のハ短調のユニゾンの主題が独特な緊張感をもたらします。そして対比的に第2主題は変ホ長調で明るく伸びやかに展開され、緻密な奥行きを感じさせます。またこの曲は後に弦楽五重奏(K.406)に編曲されています。


セレナード(第12番)ハ短調「ナハトムジーク」K.388(384a)/第1楽章 Allegro

<写真>新潟市西蒲区夏井から望む弥彦山

余談
連日の寒波と降雪のため、毎日スコップ片手に除雪作業が続いています。老体には厳しい冬です。
ところで、先回の「きらクラ!」で真理さんが最後の「私の1曲」でモーツァルトの「グラスハーモニカのためのアダージョ ハ長調 K.617a」をかけてくださいました。とても嬉しかったです。
真理さんといえば、先週の土曜(27日)の朝、たまたまBS日テレを見たら、読売交響楽団がマーラーの3番を演奏していて、真理さんのアップをカメラが何度も捉えていました。真理さんはヴィジュアルも素晴らしいです!!。演奏家としての才能、性格のよさ、美しい容姿・・・・天は何物も与えるのですね・・・。

2018年1月27日土曜日

【祝 生誕262年】K.10 ソナタ 変ロ長調

Happy birthday !!  W.A.Mozart!!!
今日はモーツァルトの誕生日ですので、初期の作品を聴いてみます。
1764年西方への大旅行中、ロンドンを訪れた8歳のモーツァルトはまとまった6曲のソナタ(別名:ロンドン・ソナタ)を作曲しています。
「ヴァイオリンまたはフルート(およびチェロ)の伴奏で演奏できるクラヴサンのためのソナタ」と楽譜に書かれていて、その目的は英王妃シャーロットに献呈するためで、1765年1月に「作品3」として出版されています。曲の内容は、当時ロンドンで活躍していたアーベルやクリスティアン・バッハの影響が表れています。
8歳の少年が、3年半にも及ぶ大旅行中に、連日のように貴族をはじめ多くの面前での演奏会をこなし、作曲までしていたということは驚くべきことです。
K.10はそのロンドン・ソナタの第1曲目です。通常はヴァイオリンで演奏されますが、ここではフルートとチェンバロで演奏されたものを聴いてみます。フルートの柔らかい響きがヴァイオリンとは違った魅力をかもし出しています。


ソナタ 変ロ長調 K.10/第2楽章 Andante 変ホ長調

<写真>ザルツブルク:モーツァルトの生家

余談
毎年モーツァルトの誕生日の頃は寒波に見舞われるようですが、今年のは超強力です。
当地は連日の真冬日で冷蔵庫の中にいるようです。水道が凍結して出なかったり、給湯器が故障したりと大騒ぎです。道路も凍結してるので、外出もはばかられます。
しかし、モーツァルトの時代は、暖房設備や交通機関も今とは比較にならない頃ですから、そんな環境下で長期間にわたり何度も旅に明け暮れた幼いモーツァルトの心情を察すると心が痛みます。もちろん楽しいことも沢山あったでしょうが、肉体的には相当な負担だったことでしょう。
レーオポルトお父さんは、ちょっと「やり過ぎた」面も否めないと思うのは私だけでしょうか?

2018年1月20日土曜日

K.407(386c) ホルン五重奏曲 変ホ長調

1782年ウィーンでモーツァルトは唯一のホルン五重奏曲を、幼少の頃からの知り合いだったヨーゼフ・ロイトゲープのために書いています。
ロイトゲープは当初ザルツブルク宮廷楽団のホルン奏者を務めていましたが、モーツァルトより一足早くウィーンに移り住み、チーズ商を営みながら演奏活動を行っていたようです。
ウィーン時代に4曲のホルン協奏曲をモーツァルトは彼のために書いていますが、そこには彼をからかういたずら書きが記されており、二人がとても親しい関係であったことがわかります。
この作品はそんな気安い関係を反映した、のびやかで遊び心に溢れています。
ホルン、ヴァイオリン、2ヴィオラ、チェロの編成で、この第1楽章はディベルティメント風の序に導かれ、ホルンが朗々と歌い上げます。


ホルン五重奏曲 変ホ長調 K.407(386c)/第1楽章 Allegro

<写真>りゅーとぴあの雪景色(1月14日撮影)

余談
大雪に見舞われた14日(日)に東京交響楽団 第105回新潟定期演奏が写真のりゅーとぴあで開催されました。 私は車は諦めて、徒歩と運転が始まった電車で1時間半かけて会場に辿り着きました。
プログラムはプロコフィエフの「古典交響曲」、ピアノ協奏曲1番、そしてラベル編曲の「展覧会の絵」。地方都市にいるとなかなか聴けないプログラムで、とても新鮮でした。
特に大編成のオケでの「展覧会の絵」フィナーレ「キエフの大門」の圧倒的な迫力には我を忘れました。
演奏終了後、最後に指揮者の飯森さんが、新潟の雪害に対してお見舞いの言葉を述べられ、「大変な雪の中をこの演奏会にこんな多くの方にお越しいただき、本当にありがとうございました。」とおっしゃってくださいました。飯森さんの暖かい人間性に感銘しました。
「こちらこそ、遠路から雪の中へお越しいただき、素晴らしい演奏をありがとうございました。」と心の中で呟きました。こころ温まるコンサートでした。

2018年1月16日火曜日

K.414 (385p) ピアノ協奏曲(第12番)イ長調/第2楽章

モーツァルトは1781年3月からザルツブルクを離れウィーンに定住し、作曲家として最も充実した時期を迎えます。今月からはそのウィーン時代の主要な曲を順番に聴いていこうと思います。今までもかなりの数のその時代の作品を掲載してきましたので、重複しない範囲で取り上げていきます。
ウィーン時代に書かれた多くのピアノ協奏曲の第1作が、このピアノ協奏曲(第12番)イ長調で、1782年の秋に作曲されました。
モーツァルトの職業作曲家として、重要な活動だった予約演奏会のために書かれたもので、ウィーンの聴衆に受け入れやすい曲想になっています。楽譜の出版も計画され、管楽器を除いた弦楽4部でも演奏できるように配慮されているそうです。
以前第1楽章を載せましたが、今日は第2楽章を聴いてみます。静かにゆったりとした協奏的ソナタ形式で、しっとりとした主題が印象的です。


ピアノ協奏曲(第12番)イ長調 K.414(385p)/第2楽章 Andante ニ長調

<写真>新潟県岩室温泉・老舗旅館の雪景色(1月13日撮影 from my daughter)

余談今日の「きらクラ!
恒例の年初の「BGM選手権スペシャル」心から楽しませていただきました。
1番目のお題「百人一首セレクション」は1曲目のバッハのカンタータで心を奪われました。オーボエの旋律が実に魅力的で朗読にマッチしていました。2曲目のヴィラ・ローボス、3曲目のコダーイも負けずに素晴らしい。 そして4曲目で「スポーツショー行進曲」・・・???・・曲が流れて大笑い!!!!。全く予想もしなかった切り口。この選者の《さかいしげはる》さんは常連さんで10回近く採用されている方かと思いますが、素晴らしい!!! 5番目のドビュッシーもよかった!! 本当に名作揃い。
2番目のお題、高村光太郎「智恵子抄」。1曲目のヴェーベルンの弦楽四重奏は、その抒情豊かな憂いを帯びた旋律には、真理さんではないですが、心を鷲掴みにされました。選者の《北風亭P子》さん(快調家族さん)も常連さんで、いろんなラジオネームで投稿されていらっしゃいますが、もう20回位採用されていらっしゃるのではないでしょうか? 他にも何度も登場された常連さんが多く、そのレベルの高さには感服します。
歴史を重ねた「きらクラ! BGM選手権」が歳月ともに芸術の域にまで達しつつあるのではないかと思ってしまいます。ふかわさんもおしゃってましたが、CDにして聴きたいくらいです。